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追跡

 外回りの仕事から帰ってきたアドラは早々にルーファスから呼び出された。

 何事かと思いきや自分のところの秘書がスパイだったという。


 ゲルダの素性についてはまったく調べたことがなかった。

 アドラにとってはああそうだったんだね程度の話だったが魔王軍からすればそうはいかない。前任者のミスは現担当が引き継ぐ。当然責任を問われることになる。


「アドラよ、貴様が責任をもって反乱軍を鎮圧してこい」


 魔王城の中にはバレては困る機密資料がいくつもある。

 スパイの発覚によりそれらが漏れた可能性が高い。

 よって反乱軍ごと口封じしてこいという話だった。


 とうぜんアドラは焦った。

 どうにか穏便に済ませられないかと何度も進言したが受け入れられず、部隊再編成後すぐに進軍することが決定した。


「……反乱軍と合流する前に、ゲルダさんを捕まえれば考え直していただけますか?」


 せっぱ詰まったアドラは、ろくな考えもなしに実現困難なことを口走った。

 当然ルーファスは鼻で笑う。


「やってみるがいい。できるものならな」


 かくして魔王軍にゲルダ捕獲チームが結成される運びとなった。


 とはいえ手駒の師団はクーデターの一件で混乱状態。

 サーニャも司令部の部下も皆ゾンビで術者からあまり離れられない。

 故にアドラが直接行くことは確定となる。

 もっとも最初から独りで行く気マンマンだったアドラにとっては、むしろ道連れがいるほうが不満だったのだが。


「ちょっとそんなに邪険にしないでよぉ。傷つくじゃないのぉ」


 陽もどっぷりと暮れた真夜中の作戦会議室。

 オルガンとテーブルを挟んで対面したアドラは不審感を隠さない。


「だってオルガンさんがついてくるのっておれの監視が目的でしょう?」

「正解。さすがに少しは学習してきたわね」


 アドラもいつまでも無垢な青年ではいられない。

 忖度という言葉とは裏腹に自分が危険人物扱いされている自覚はある。


「でもそれだけじゃないわ。相手は光の魔術を得意とする大精霊。あなた独りではその足取りすら追えない。あたしの力は絶対に必要よ」


 それはまったくもって正論だった。

 アドラは知識こそあれど魔術の類はほとんど使えない。

 彼の内で蠢く悪意は何かを殺すことしか興味関心がない。

 そんなアドラがどうして高位の魔術師の足取りを追えようか。


「おれが間違ってました。捜索活動のお手伝いよろしくお願いします」

「よろしい。頼りにしなさい」


 アドラはすぐに非礼を詫びて頭を下げた。

 オルガンは自慢げに放漫な胸を張る。


「でもその下着みたいな格好だけは改めてもらえないでしょうか?」

「なんで? これサキュバスの正装みたいなものよ」

「……」


 他種族の事情にはあまり口を挟まない。

 同行するのは少し恥ずかしいが我慢するしかない。

 もっともアドラもあまり他人のことをいえた格好ではないのだが。


 閑話休題。

 話題をルキフゲ捜索へと戻す。


「それで、こんな所で悠長に会議しててもいいんでしょうか。今すぐ追ったほうがいいのでは?」

「闇雲に探してどうするのよ。何度もいうけど相手は光を自在に操るのよ。光を屈折させて不可視になれるのはもちろん、眼から侵入して脳内の電気信号をいじって相手の認識すら変えられるわ。光は電磁波の一種だからね」

「でたらめな大魔術ですね。おれも魔術は学んでましたけどそんな反則じみた魔術見たことも聞いたこともないですよ」

「大精霊の秘術なんだから当たり前よぉ。あなたの結界魔法だって外部には秘匿じゃない」

「あなたはどっちも知ってるみたいですけど何でなんですか」


 ――それは企業秘密。


 ウインクして可愛く誤魔化すが恐ろしい魔女だ。


「幸いこの城塞都市からはたとえ不可視の魔術師であろうと容易には出られない。おそらくは翌朝来るであろうキャラバンに乗じて脱出する算段だと思うわ」

「なるほどつまりまだ猶予があるというわけですね。でもこの広い都市内で視えない相手をどうやって探せばいいんでしょうか?」

「そうね、見えない相手は探せない。だから今のあたしたちはただ待てばいいのよ」


 首を傾げるアドラにオルガンは薄笑みを浮かべる。


「実はね、あたしちょうどいい玩具をゲットしたばかりなの」


 開け放たれたままの会議室。

 そこに黒い生き物がひらひらと飛んできてオルガンの細い指に止まった。


「視えないなら聴けばいい。シンプルな話よねぇ」


 その正体は蝙蝠こうもり

 シゲンの元使い魔だ。

 今はオルガンの魅了魔術によって使役されている。


 蝙蝠は自身が発信する超音波の反響を受信して仲間の識別や物体との衝突を避けることができる。

 いわゆるエコーロケーションと呼ばれる能力だ。

 魔術によって強化されたそれは視覚以上に物体の特徴を正確に把握することが可能。

 オルガンは都市に数百匹の蝙蝠の使い魔を放ちルキフゲの居場所を探っていたのだ。


「はいビンゴ。現在南区の大通り沿いにある宿屋に宿泊中。認識を操作できるからくっそ大胆ね。どう、あたしの力必要でしょう?」


 アドラは苦笑いを浮かべて同意した。

 ルーファスですら匙を投げる不可視の魔術師の居場所をこうもあっさりと特定する。

 ルキフゲが大精霊ならオルガンは大魔女だ。


 本当に恐ろしい女性だ。他にもどれだけ多くの切り札を隠し持っているのだろうか、正直予想すらできない。

 とにかく彼女を敵に回すのだけは絶対に避けようとアドラは心に誓うのだった。

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