蛇は成らず
「オラオラオラオラオラオラオラオラどうしたどうした!? 縮こまってないでちっとは反撃してこいやぁ!! 実は蛇じゃなくて亀でしたってオチかァ!?」
さながらレーザー光線の如き鋭利さを誇る 《抹殺の悪威》 は、ジャラハの身体を少しずつ、だが確実に削っていった。
本体直撃こそどうにか免れているものの、状態変化による攻撃をしようとした瞬間に切り刻まれる。よって防御に徹するしかないのだが、反撃がない分余裕のあるサタンは更に攻撃を加速させるという悪循環だ。
「他の連中みてえに魔力切れ体力切れを期待すんじゃねぇぞぉ! 最初からいってる通りボクはおまえの上位互換だからなぁっ!」
あれからずいぶんと時間が経っているがサタンの魔力が尽きる気配は微塵もない。
ウロボロス種同様かあるいはそれ以上の無限大の魔力。
打開は極めて困難な状況だ。
「ちぃっ!」
それでもどうにか攻撃の合間を縫って反撃するが、それも竜頭にあっさりと防がれてしまう。
攻防両立という宣言に嘘偽りなく一切の隙がない。
「ボクはボクにできないことができる者に敬意を表する。トマルやガイアスがその典型例だ。末席だがそこにオキニスも加えてやっていい。だがおまえには一切それはない。すべてがボクの劣化のゴミだ。興味はないが生かしておく理由もあまりない。小便まき散らしながら土下座して謝るなら許してやるがどうせ死んでもやらんだろう。生きている限りイキりちらしてボクを不愉快にさせるのは間違いない」
苛烈な砲撃に加えて更に竜頭による打撃まで加わる。
縦横無尽にして変幻自在。悔しいがジャラハには到底真似できない芸当だ。
「よって己の無力さを噛みしめながらみっともなく死んで詫びろ」
上空より機を伺っていた黒竜がチャージしたエネルギーを解き放つ。
回避不可能な頭上からの一撃がジャラハを襲う。
「……まっ、ある程度は認めるよ」
サタンの 《抹殺の悪威》 がジャラハに直撃した。
だがその攻撃が彼に通じることはなかった。
「おれたちは自己防衛に特化した生に卑しき種族。その事実に激しい嫌悪を覚え、ただ闇雲に攻撃魔術を学び続けた時期もあった」
爆煙巻き起こり火の粉散る。
激しい粉塵と熱気の中からジャラハの影が見えた。
「結局のところ蛇は、竜に憧れてただけだったんだろうな」
熱で歪んだ景色の中でジャラハは薄笑みを浮かべる。
「だが師匠のおかげでようやく目が覚めた」
彼の周囲には白銀に輝く魔力の障壁が張られていた。
「ないものはねだらない。蛇は蛇らしくだ」
不動。
それこそがウロボロス種に与えられし天稟。
徹底した生への執着こそが蛇の誇り。蛇の誉れ。蛇の生き様。
ならばそれを極限まで鍛えあげる。与えた天すらも越えるほどに。
「さあ続きを始めようか」
「フン……前言をほんの少しだけ撤回する。思っていたよりもやるようだ」
蛇の王は竜に成らず。
蛇のまま竜の王を越える。
人のまま神を越えた狼のように。




