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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第5章 選神戦争 Ragnarok Transcendence
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新時代の神子たち

『れでぃぃぃーすあんどじぇんとるめぇぇぇん! 楽しい楽しい選神戦争の時間の始じまりだよぉぉぉう♪』



 アヴェントス邸で本場のプリンシパリティ料理を振る舞われていたエリは、突然の精神感応の受信に食べていた料理を吹き出した。



『この放送はボクの因子を受け継いだすべての者に強制的に送られていますぅ。プロテクトは一切していないので傍受はいつでもウェルカム。マドの腐れ外道どもと死に損ないの天使の残りカスどもは特に歓迎いたしますぅ』



 口を拭いながらエリは自分の内にまだサタンの因子が残っている事実に戦慄する。

 この身からサタンの影響を完全に排除するにはやはり本体を殺すしかないようだ。



『事情がよくわからないという情弱な方々のために、今からボクが直々に事の経緯を説明したいと思いまぁす! サタン公式生放送、略して 《サタ生》 ! 記念すべき第一回放送をはっじめるよぉ~~~~っ、はい拍手! 88888888888888』



 ――人類悪が、あまり調子に乗るなよ。


 もともとやる気はマンマンだったがさらに殺る気が出てきた。吹き出した料理の恨みも合わせて万倍にして返してやろう。正直そんなに美味くはなかったが。



『事の発端はラースの遺言だ。こいつは教皇とそれに準ずる者に極秘裏に伝えられた。ボクはこの情報を何代か前のラファエルをぶち殺すことで入手したわけだけど……もう隠すこともないので暴露しちゃうね』



 ミーヤの閨にてサタンの精神感応を傍受していたネウロイは、最悪の未来が現実となったことに戦慄していた。



『簡単にいえば新世界を導く真神を決めるための催しを始めるんだとさ。結局どうやって決めるのかいわんまま失踪しちまったけどな。よって主催代理であるボクが独断と偏見で決めるわ』



 選神戦争の内容を予測するのは容易。

 そしてそれがどれほどの悲劇を生むかも容易く予想できる。

 新しい神を待ち望む者には申し訳ないが、



『ルールは簡単、最後の一柱になるまで殺しあうだけ! 候補者が一柱になれば必然そいつが主神になるしかない! 超絶シンプルかつ公明正大で誰も文句のつけようがないだろぉ!?』



 ――絶対に阻止しなければならない!


 ネウロイの頭脳はすでに大戦争の回避のために動き出していた。



『ただ候補者の定員すらも具体的に決まっていないのが大問題なんだよなぁ。ボク含めた何人かは名指しで指名されているようだけどね。おかげで心優しいボクも今回ばかりは無差別にやらざるをえない。まあ、全人類の半分ほどぶち殺してやればさすがに全滅するんじゃね? 知らんけど』



 同日同刻――旅館『壺八』。

 極めて高度な精神感応者テレパシストであるミカエルは、世界中に放たれたサタンの『放送』を聞いて大きく肩をすくめた。



『いちおう忠告しとくけど、死にたくない奴は早めにミーザルに恭順したほうがいいと思うよぉ。あそこがボクのホームグラウンドだからさァ。犬のように尻尾を振るならとりあえずは生かしておいてやる』



 ――やれやれ、あの御方のヤンチャにも困ったものだ。


 これではグロリアが人類悪に与していると白状しているようなもの。少なくともヒエロとはこれで戦争確定だ。もっともそれが狙いなのだろうが……後の外交問題のことを考えると少々気が滅入る。せめて旅行から帰るまではおとなしくして欲しかったというのが本音だ。

 今後も余計なことしかしないだろうし、いっそのことこの戦争に負けて死んでくれたほうがありがたいかもしれない。



『もっとも、それじゃつまんねーから反発してもらったほうがいいけどな!』



 ――まっ、どうせ誰にも負けないでしょうけどね。


 サタンが現時点における最強の生命体であることは疑いの余地がない。

 勝ちが確定していると思っているが故の余裕の宣戦布告だ。


 だがこの世に絶対という言葉はないし、あの邪竜に多少の破滅願望があることも識っている。ならば自分は上手く立ち回って世情がどうなろうと問題ないようにするまで。

 ヤポンの伝統芸能『タマムシイロ』だ。


 ああ――何という素晴らしい処世術。


 旅館の居心地もいいし、島国なれどヤポンは人類史上最高の国家だった。

 真っ先に滅んだことについてはこの際、目をつぶろうじゃないか。



『反発といえば真っ先に来るのはキュリオテスか。でもあいつら知性の欠片もない蛮族だから、どうせこの放送を傍受する智慧もねぇか。はぁ……残念ざんねんザンネンだねぇ。国そのものが残念だわぁ』



 ――ちゃんと聴こえているぞ、クソったれが。


 ルガウの山奥で瞑想をしていたジャラハは、サタンの挑発に対して悪態をついた。

 師ガイアスより授かった数々の魔術の極意は、力一辺倒だった彼に大いなる智慧を与えていたのだ。



『キュリオテスに縁のある奴がいたら「自称最強の魔族」ジャラハくんに伝えてやってはくれないかい。キミはボクはおろかガイアスにすら及ばぬ愚かな小蛇、キュリオテスは母さんを退けた真の狼王であるアイツにくれてやる予定だから、無駄な抵抗はせずにさっさと立ち退けってね』



 ――ついに神を退けるまでの成長を果たしたか!


 下級魔族というハンデをものともせず、前人未踏の進化を続ける偉大な師にジャラハは喜びの笑みを隠しきれない。

 まずはかつて無礼なことを口走ったことを改めて詫びよう。

 そして今度こそ良き好敵手として、最強の座を賭けて正々堂々と闘いたいものだ。


 ――邪魔な塵芥サタンを掃除してからなァ!!!



『では最後に、最愛の愚弟であるアドラに伝言を』



 サタンの精神感応をもっとも強く受けていたアドラは、座禅を組んだまま放たれる言葉に耳を傾ける。



『閻魔殿は陥落した。おまえの義母イザベルも死んだよ』



 予想外の事態だったが、アドラは驚きも狼狽もしなかった。

 いつまでも愚鈍で矮小な小市民を気取っているわけにはいかない。

 皇族とは人類の代表者。人類の繁栄のために心臓を捧げし者。

 死への覚悟は常にあって然るべきだ。



『おまえの目論見はすべて破綻した。人類の勝ち目はゼロだ』



 自分の無力に対する激しい憤り。

 だがアドラは座禅を解かず。

 明鏡止水の境地へと至らんとする。



『人として生きたいなら旅館そこにいろ。ボクが末永く飼ってやる。復讐がお望みならば駆けあがってこい。ボクと同じステージまでなぁ!』



 ――いわれずとも行くさ、あんたのところに。


 アドラはすでに覚悟を決めていた。

 覚悟を決めるというより諦めたというべきか。

 この戦争を勝ち抜くために人類であることを諦めたのだ。


 ――お望み通りくれてやるよ。死神として邪竜に永遠の死を。



『さて、お名残惜しいですがそろそろ放送終了の時間がやってまいりました。みんな楽しんでいただけたかなぁ? 楽しんだに決まってるよなぁ!?』



 そういってサタンはケラケラと笑った。

 ひとしきり笑った後とつぜん真剣な口調で、



『追伸:この放送を聴いたモーリスは今すぐその場で自決しろ。しない場合は死ぬよりも恐ろしい目に遭わせる。すでに居場所も割れている。抵抗も逃走も無意味だ。まあ逃げる気はさらさらないみたいだけど』



 ――誰が逃げるか。


 生放送を一部始終聴いていたモモはくつくつと笑った。


「というわけで、どうやら妾も逃げ道はなくなったようだぞ」

「はぁ……そういう事でしたらお止めはいたしませんけどね」


 ルージィは大きな大きなため息をついてからいった。

 極秘裏に行動しているつもりだったのだが、まさかどこからか情報を掴んでここ――辺獄で待ちかまえているとは思いもよらなかった。


「黙って行くとは水臭いぞルージィ。妾たちは夫婦ではないのか?」

「契約上だけの間柄じゃないですか。枢機卿の妻という地位が、あなたにとって何かと都合がよかったというだけで」

「なんと、それでは妾がまるで既得権益目当てで結婚した毒妻ではないか!」

「事実、昔の贅沢な暮らしが忘れられないんじゃないんですか。ねえ、ラファエル聖下?」

「『元』な。贅沢がしたいだけなら教皇を辞めてはおらん。少なくとも妾はおぬしのことをきちんと人生の伴侶だと思っておるぞ。そういうおぬしはどうなんだ?」

「私は “持たざる者” 。人並みの幸福など不要です。今回も一種の自殺行為、死んですべてを終わらせるために地獄まで来たんです。もともと死んだら地獄に堕ちる予定でしたので、手間いらずでいいでしょう?」


 そういってルージィが力なく笑うと、モモは彼の頭を杖で叩いた。


「リドルの一件で精神的にまいっておるのかもしれんが、妾の目の黒いうちはおぬしを終わらせはしないぞ。おぬしにはまだまだ吸える蜜がたっぷり残っておるからのう」

「やっぱり既得権益目当てじゃないですか……」


 二度目のため息をついてから、ルージィはもう一人の同行者に目を向ける。


「あなたも無理につきあう必要はないんですよ?」


 ルージィの言葉に、しかし同行者は静かに首を振った。


「ルージィさんには恩義がある。あんたが死を賭して赴くなら、もちろん最後までつきあうぜ。それに――」


 同行者は深めに被っていたフードを脱いで、地底に蠢く邪悪なる気配に激しい憤りを見せる。



「ルガウの勇者として、こんな悪党をいつまでも世にのさばらせておくわけにはいかねえからなぁ!」



 同行者――オキニス・エンシはそういって力強く胸を叩いた。



「ありがとうオキニスくん、やはり君は私が見込んだ真の勇者だ」



 照れるオキニスを見てルージィは微笑みを浮かべる。

 マドがアドラを選び、ミーザルがサタンを選んだとするならば、オキニスはルージィが選びし新時代の神だった。


 ルージィの最後の仕事は彼を世界の頂点へと導くこと。

 アドラもサタンもそのための生け贄にすぎない。


 ――もちろん私の生命もね。


 数多の犠牲の上にオキニスは勇者として真の覚醒を迎えることだろう。

 その礎となって死ぬならそう悪くはない死に様だ。

 それどころか持たざる者らしくない恵まれた最期かもしれないが……これはまあ仕方がない。


 誰にも何の影響も与えずにただ無為に死ぬというのはなかなかどうして難しい。あのリドルですら無理だった。

 幸福の超過分は地獄での責め苦で支払うとしよう。閻魔が生きていればの話だが。

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