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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第5章 選神戦争 Ragnarok Transcendence
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密会

「すまない。貴殿には多大なご迷惑をおかけした」


 村に監禁されていた部下たちを連行してきたエリは、ネウロイと合流すると深々と頭を下げた。


「その場で叩き斬ってやっても良かったのだが、そんなことをしたら村にまた迷惑をかけてしまうからな。彼らは本国に送還後、厳しく処罰するのでどうかご容赦を」

「できれば穏便に済ませてやってください。彼らはただ命令に従っただけなのですから」

「そういうわけにはまいりません。彼らが忠誠を誓い従うべき相手は私のみ。ニ君に仕える騎士を見過ごしては他の者に示しがつきませぬ」


 そしてエリは毅然とした態度でダラクに命ずる。


「帰るぞダラク。魔石の準備をしろ!」

「断るにゃ」


 ダラクはけんもほろろに却下した。

 汚物を見るようなその眼差しは、まかり間違っても主君を見るそれではなかった。


「なんでネウロイ様に危害を加えたおまえらの命令に従わないといかんにゃ? 今ここで殺されなかっただけありがたいと思って泳いで帰るにゃ」

「いや、その件についてはもうしわけないと思っているが……君は仮にも騎士だろう。だったら――」

「騎士ならもうやめたにゃ」


 そういってダラクはネウロイに向かって土下座する。


「ネウロイ様! どうかおいらをあなた様の家来にしてくにゃさい!!」


 ダラクが懇願すると同時に他の村人たちも一斉に平服した。

 突然の事態にネウロイは困惑する。


「おいらこれでも村一番の勇者にゃ! きっとあなた様のお役に立つにゃ!」

「オイラからもお願いするべ! うちの村の恩返しとして是非こいつをもらってやってくだせぇ!」


 懇願するアヴェントス親子に、しかしネウロイは首を横に振る。


「すまんが今の儂は部下を取れる立場じゃない。魔王軍に入隊したいのであれば魔界にまで赴き、然るべき手続きを行わなければならない」

「別にいいぞ。今すぐネウロイの下につけてやる」

「ルーファス……忘れとるかもしれんが、おまえはもう魔王じゃないんだから少し黙っておれ」


 邪険にされてふてくされるルーファスを無視して、ネウロイは落胆するダラクの肩を優しく叩く。


「部下としては無理だが弟子としてならその身柄を預かろう。それで構わないか?」

「も、もちろんにゃ! 光栄至極にゃあ!」


 ダラクは半泣きだった顔をパッと明るくした。


「では師として弟子への最初の命令だ。聖王陛下をソロネまでお送りしなさい。もちろん丁重にな」

「アレをですかぁ? いえ、もちろん嫌というわけではにゃいのですが……」

「不満か?」

「にゃっ! 喜んでやらせてもらいますにゃ!」


 ダラクが仰々しく敬礼すると、ネウロイは満足げにうなづいた。

 そして次に暇そうに蝶々を追いかけていたサーニャに声をかける。



「すまないが、アドラに連絡を入れてくれないか?」



                   ※



「――了解。ありがとう、完璧……とはさすがにいえないけど、おれじゃこう上手くはいかなかっただろうね。いい仕事でしたよサーニャさん。ネウロイさんからの言伝も了承しました。事が済み次第すぐに合流するね。ああ、魔界のことなら心配いらないよ。どうにかとりまとめて来たから。……うん、じゃあまたね」


 アドラは朗らかに笑いながら通話を切って携帯を仕舞うと、テーブルに肘を乗せて指を組み、冬の海よりも冷たい眼差しを対面の相手に向ける。


「ではさっそく聞かせてもらいましょうか」


 ただただ真っ白で広大な部屋に男女が二人居た。

 純白のテーブルに白塗りの椅子。十二単じゅうにひとえの女性が持った白いポットから白磁のカップにミルクティーが注がれる。

 さながらデートのシチュエーションだが甘ったるい気配はまるでなし。むしろ今すぐ喧嘩でも始まりそうな険悪な雰囲気だった。


「おれを騙して大戦争をひき起こそうとした理由を」


 アドラがにらみつけると、十二単の女性――ウリエルは平然とした顔でいう。


「騙してなどおりません。我々は最初から戦争を始める予定でした。あらかじめ戦力増強の提言もいたしました」

「だが君たちは神であるおれの意志に従うといったはずだ」

「無論、我々は神に従います。それが貴方様であろうとネメシス様であろうと」

「神なら誰でも良かったってわけか」


 アドラは吐き捨てるようにいった。

 ネメシスに自分の身体を乗っ取らせるという目論見が外れた今、マドとその教皇は果たして敵か味方か、それとも……。


「聞かせろウリエル。そこまでして戦争がしたい理由を」

「サタン抹殺は全人類の悲願。ただそれだけの話です」

「無辜の民を巻き込んでまでもか?」

「はい」

「そこまで憎んでいるのならなぜ今まで事態を静観していたッ!」


 アドラがテーブルを叩くと、カップに注いだミルクティーがぶちまけられた。

 ウリエルはアドラの怒りに動じることなく少しだけ目を細める。


「静観などした覚えはありません。我々は常に我々にできる範囲でサタンの行動を妨害してきました。我らは神託の調停者。そのすべては世界の均衡を保つために」

「その均衡を破壊しようとしているのは何故だと訊いている」

「時間がなくなったからです。ある日、突然に」


 アドラは眉根を寄せた。

 言葉の意味がわからない。


「ガイアス様から『魔導の頂』の話を伺いませんでしたか?」

「サーモス滞在中に到達したらしいですね。大した成果はなかったそうだけど」

「ガイアス様は人類史上二番目にそこに到達した偉大な魔術師です。ですが結局、先駆者のように悟りを開くことは叶いませんでした」

「そんなもん要らんし、どうでもいいって言ってましたけどね」

「あの御方はそれで良かったかもしれませんが、我々にとってはそうではなかった。ただそれだけの話なのです」



 話は約半年前――ガイアスたちが魔導の頂に到達した日にまで遡る。

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