クーデター①
風雲急を告げる魔王城。
その門前でアドラはただ呆然立ち尽くしていた。
「城を取り戻すって、いったいどうすりゃいいんだろう」
城攻めの経験などアドラの人生の中でただの一度もない。
幼少の頃学んだ軍事知識が少しある程度だ。
彼が途方に暮れるのも無理からぬ話。
「ホント困ったわねぇ。早くどうにかしてもらえないかしらぁ」
そういってアドラにちらちらと期待の眼差しを向けてくるのはオルガン。
アドラより先に軍団を率いて城を囲んでいた。
「こっちは数十名の護衛しかいないんですからオルガンさんが何とかしてくださいよ」
「さすがに無理よぉ。あたしの魔術師兵団は後方支援が専門なんだもの」
――ウソだね。
短いつきあいながらもすでにアドラはオルガンの性格を熟知していた。
確かに魔術師は後方支援を得意としている。
だがそれだけしかできないはずがない。
オルガンの全身からみなぎる絶対的な自信がそれを証明している。
要するにオルガンもルーファスとグルということだ。
「ここは魔王の右腕であるアドラ様にお任せするわ。いい作戦を期待してるわ」
「都合のいい時だけ様付けするのやめてくれませんかね」
正直こんな城どうなってもいいのだが一応お給料をもらっている手前できるかぎりの思案を巡らせる。
サタン・ドラゴニック・パレス。
氷漬けになったサタンをモチーフにした悪趣味ながらも芸術的な一品。
サタンですら我が配下であるといわんばかりの実にルーファスらしい城だ。
もちろん芸術性が高いだけではなく機能美も持ち合わせている。
まずはハイレベルな防御結界。
賊や敵兵の侵入を防ぐため不可視の壁が常時張られている。
故に第一司令部の許可なしに城に侵入することはできない。
壁が見えないのは城の景観を損なわないため。芸術面への配慮も完璧だ。
次に強力な防衛機構。
これについてはまず直接見てもらったほうがいいだろう。
アドラの到着に気づいたネウロイが部下に攻撃指示を出す。
すると魔王城の上空に渦巻く暗雲から稲妻がほとばしりアドラの脳天に直撃した。
氷炎結界に護られているアドラはまったくの無傷だが周囲の部下たちはその余波だけで感電し激しくのたうち回る。その威力は折り紙付きだ。
空より放たれ敵を討つ雷魔法発生装置『トールハンマー』。
雲型なのは魔陽を遮りおどろおどろしい雰囲気を演出するため。芸術面への配慮も完璧だ。
「素晴らしい。さすがはルルロラさんの最高傑作と目されることはある」
匠の技にひとしきり感動したアドラは城攻めを部下のシゲンに丸投げした。
下手な考え休むに似たり。餅は餅屋ということ。決して怠惰からではない。
突然の雷撃の余波を間一髪のところで魔法で防いだシゲンはアドラの命令に小さく舌打ちする。そしてこう思うのだ。
調子に乗っていられるのも今のうちだけだ――と。




