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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第4章 魔界の覇王 Devil Overlord
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魔界頂上決戦⑤

 馬の下半身を持った橙色の怪鳥がけたたましく嘶いた。


「死術 《暴れ駒鳥》 。これで三対一だ」


 アドラを守護する忠実で邪悪なる下僕たち。

 更なる進化を遂げた 《抹殺の悪威》 によって生み出されたリビングデッド。

 人の身では抗うことすら敵わぬはずだ。


「これがサタンとやらが使ったとかいう 《抹殺の悪威》 専用の魔術か」


 しかしガイアスはそれを見るなり鼻で笑う。


「さっきから猿マネばっかりだな。芸がねえよ」


 アドラは歯軋りを更に強くする。

 そういえばこういう男だった。さっきはルインの不遜を咎めていたが、こいつの性根もさして違いはない。


 だがそれはそれとしてガイアスの言葉は紛れもない事実。

 事実は事実として認め、受け入れるしかない。


「そうだよ。剣技も、魔術も、政治も、裁縫も、おれのやること為すことすべて誰かの模倣だ。凡庸なおれは天才のあんたのように新しいモノをポンポンとは生み出せない。あんたから見ればさぞ情けなく、さぞくだらない男だろう」


 唯一あるのは何の役にも立たない破壊の魔力さいのうのみ。

 ゴミだ。クズだ。カスだ。

 馬鹿にされてもしかたがない。


「そんなクズにあんたは今、殺されるんだ」


 だがそんなクソみたいな力でも世界を均すことはできる。

 自分が生涯かけても及ばぬ者の足を引っ張り、地の底にまで引きずり下ろすことができる。


「あんたがこの域に達するまでどれだけの努力したかおれはよく知っている」


 何度挫折しても諦めず立ち上がり続けた。下級魔族というハンデを物ともせず。

 決してただ才能に恵まれていただけではない。


「立派だ。偉大だ。尊敬だ。返上したと聞いたけど、確かにあんたに <地狼星> なんて似合わない。今のあんたは天に輝く太陽だ。おれの英雄だ。いや人類史から見ても類希なる英傑だろう」


 才能と努力の両方を兼ね備えた真の天才。

 力と勇気を兼ね備えた真の英雄。

 何というまぶしさ。あまりにまぶしすぎて直視すれば目が潰れかねないほどに。


「そんな英雄でも死は平等だ! 自由が好きなあんたに真の自由をくれてやる!」


 今ならリドルの言葉が心の底から理解できる。

 リドルの正しさを魂で感じられる。

 真の自由と平等とは、綺麗に均された世界の、地平線の彼方に見えるものだと。



 君の思想は正しかった。

 そしてその正しさを証明するための力をおれは持っていた。

 おれたちの出会いは運命だったんだ。



「往くぞリドル! 出る杭を討つ!!」



 親友の幻影と共にアドラは再びガイアスに挑戦する。

 今度は先ほどのようにはいかない。

 一本の矢は容易く折れるが三本の矢は折れないというヤポンのことわざの意味を、その身で直接覚えるがいい。


「……哀れだなアドラ。完全に正気を失ったか」


 ニ体の供を連れて接近するアドラをガイアスは腰を落として迎え撃つ。


「おれは哀れな笛吹きだが、それを哀れむ奴は赦さない」


 アドラの役目は正面に注意を引きつけること。

 その間に駒鳥をガイアスの頭上へと移動させる。


「歯に衣着せず事実を口にする者には――相応の代価を支払ってもらうッッ!!」


 アドラの手刀が閃光のように解き放たれた。

 ガイアスはこれを当然のように受け流す。

 もちろんこれは想定内。ただの撒き餌だ。


「今だッ!」


 アドラの号令と同時にガイアスの頭上に待機していた駒鳥が急降下する。


 ――がら空きの頭をツツきまわしてやれ!


「バレバレだ」


 だがこの攻撃もガイアスにあっさりとかわされる。

 急降下して襲いかかる 《暴れ駒鳥》 をミリの単位で見切り、身体ひとつ分後ろに動かすだけで回避してみせたのだ。


「それで終いか?」


 ガイアスの回避行動は攻防一体。

 かわすと同時に駒鳥を蹴り飛ばし、腕を引き腰を回し、間髪入れずにアドラの顔面に拳を振るう。


 ――いいぜ来いよ!


 アドラは歯を食いしばり予定された衝撃に耐える。

 たかだか二割の 《抹殺の悪威》 。どれだけ痛かろうが覚悟していれば決定打にはなりえない。

 ならばその事実を有効に活用すべきだろう。

 どれだけ速かろうとも、回避行動に隙がなかろうとも、攻撃時――いや攻撃が当たった瞬間だけは止まらざるをえないのだから。


「こっちが本命だッ!」


 叫ぶと同時にアドラの背後から餓狼が出現した。

 アドラを踏み台にしてガイアスに猛然と襲いかかる。

 自らを囮にした捨て身の戦術。

 さすがにこれはかわせまい。



「グギキャキャキャキャキャキャキャ」



 餓えた狼が奇声をあげながらガイアスに取り付いた。

 そしてその首筋に鋭い牙を突き立てる。



 ――勝った!!!



 どうだガイアス!

 独りでは勝てない難敵だろうとみんなで力を合わせれば必ず勝てるんだ!

 チームワークの勝利だ!!

 悪は滅びた!!!



一匹狼おれに狼をけしかけるとは無粋な奴め」



 だが喜びもつかの間、ガイアスに取り付いた 《虚ろ餓狼》 は、大地より突如現れた金剛石の牙に噛み砕かれ、胴から真っ二つに割れていた。


「上っ面だけ真似た児戯同然の技など俺には効かん」


 ガイアスが指を鳴らすと背後から爆発による衝撃が走る。


 ――爆砕牙!


 この術自体にはたいした威力はないが、今ので体勢が、が、が――――ッ!


「あんた、頼る相手を間違えてるぜ」


 ガイアスの拳が、先ほどと同じ箇所に、今度こそ完全に突き刺さった。

 爆風にあおられ威力を殺げず、アドラは深いダメージを受けて大きくふらつく。


「勝利の女神を手放しちまったらこうなるのも必然さ」


 当然この隙を逃しはしない。

 ガイアスが止めを刺すべく踏み込んでくる。



 ――負けるのか、おれは?



 こんなところで、こんなちっぽけな狼を相手に……。



 ――ありえん!!!



 ありえん!! ありえない!! ありえません!!

 おれは! 私は神です! 神が人に敗北するなど赦されない!!

 格を、格の差を見せつけねば!! 多少の恥を晒そうとも!!!



「!!」



 本能的に身の危険を感じたガイアスは攻撃を中断してとっさに飛び退いた。

 その直感はおそらくは正しい。あのまま突っ込んでいたら、その身丸ごとこの世から消え去っていたかもしれない。



『やはりあの時、きちんと始末しておくべきでしたか』



 アドラの背後の空間に亀裂が走った。

 二つに割れた先にあるのは虚構の海。そこには赤い単眼が浮かんでいた。

 その眼は、冷静に冷徹に、ガイアスを見つめている。


「よう女神様、やっぱりあんただったか。本性を現すのがちっとばっかし遅いぜ」

『あなたごときに二度もこの姿を晒すことになるとは思いもよりませんでした』


 先ほどまでとは比較にならぬほどの悪意が世界を侵食する。

 何もかもを絶望の闇へと塗り替えていく。

 真なる神の領域。人の身にはあまりに恐れ多い。


「あんたに再び挑戦するために、俺は幾多の死線を踏み越えてここまで来た」


 だがガイアスは決して臆さない。

 不敵な笑みを浮かべたまま大山の如く動かない。

 覚悟などとうの昔に決まっている。

 仮にこの先に死の運命が待ち構えていようとも、ただ笑って受け入れるだけだ。


「あの日失った俺の矜持、ここで返してもらうぞ」


 静水のように落ち着いた構え、しかし焔のように燃え上がる心で、ガイアスは再び神へと挑戦する。


 魔界の命運を決める最終決戦の火蓋は切られた。

 もはや太陽神ラースであろうと止められはしない。

今週の更新はここまでとなります

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