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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第4章 魔界の覇王 Devil Overlord
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魔界頂上決戦④

 この世に魔王は二柱ふたりといらぬ。

 お飾りの役職の話などではない。魔の頂点という意味でだ。


 ――おれとあんた、どちらか一方が真っ赤なニセモノだ。


 生き残るのは真実だけ。

 贋者は罪人としてただ滅びさるのみ。

 今ここで真の魔界の王が誰か世に知らしめよう。

 いや……知らしめる必要などないか。



 あんた独りが理解すれば、ただそれだけでいい――ガイアス・ヴェイン!



 ガイアスの歩みに合わせてアドラも静かに間合いを詰めていく。

 常人なら気が狂れるほどの漆黒の魔力が大気を満たしていく。

 張りつめた空気が両者の肌を強ばらせる。



 互いの脚が止まった。

 本能で察した致命の間合い。その半歩前で様子をうかがう。

 血よりも濃いあかで彩られた生命線デッドライン。踏み越えた先には破滅が待っている。


「……」

「どうした来ないのか?」


 アドラがギリギリの所で様子をうかがっているとガイアスが声をかけてきた。

 あまりに気さくすぎて一瞬戦闘中だということを忘れかけるほどに。


「じゃ、俺から行くわ」


 そして躊躇なく死線を踏み越えてきた。

 その瞬間、魔界頂上決戦の第二幕が切って落とされる。



「シャアァ!」



 アドラの手刀がガイアスの首を狙う。

 大山切り裂くその一撃を文字通り首の皮一枚の距離でかわす。


 ――外れたか!


 だが攻撃が軽々に当たらないのはもう理解した。

 先ほどのように隙だらけのテレフォンパンチはもう打たない。

 すぐさま体勢を整え反れた上体に追い突きを放つ。

 これはさすがに避けきれずに腕で受ける。


 だがやはりあっさりと回し受けで受け流されてしまう。

 理屈はわからんが単発で当たらないなら当たるまで連打するのみ。

 アドラは息を止めると再び拳を振りかぶる。


「受けて立とう」


 ガイアスもまた腰を落として腕を引く。

 次の瞬間、互いの拳が火花を散らして交錯する。



 ――パァン!



 空気が弾ける音がした。

 それも一度ではない。何度も何度も際限なくだ。


 拳が振り切られる毎に衝撃波が起きるほどの攻防。

 人智を越えた格闘戦。

 足を止めての被弾お構いなしのインファイト。


 アドラの拳がガイアスの頬をかすめる。

 同時にガイアスの拳もアドラの頬をかすめる。


 打つ。打つ。打つ。

 撃つ。撃つ。撃つ。

 打って打って撃ちまくる。


 男の誇りをかけた意地の張り合い。

 どちらも決して譲れはしない。

 互角の攻防が続く。


 だが、しばらくするとその均衡が少しずつ崩れていく。


「ぐぅ……っ!」


 ガイアスのかぎ突きがアドラの横腹を捉えた。

 痛みに耐えながらも手刀を振り下ろすがその瞬間にはすでに目の前から消えている。

 そして今度は逆方向から鉤突きが飛んでくるのだ。


「くそッ!」


 さすがに同じ手は食わない。必死に腕を下ろしてガードするものの……。


「隙だらけだぜ」


 ガイアスの言葉通り、今ので上半身のガードががら空きになってしまった。

 最短最速で放たれた掌打がアドラの顎をカチ上げる。

 アドラはたまらず後退した。


 男同士の意地の張り合いはガイアスの勝利に終わった。



 ――何故だッ!?



 揺れる頭の回復をはかりながらアドラは思考を張り巡らせる。


 ――おれたちが互角のはずがない!!


 決してガイアスを軽んじているわけではないがそれでも魔力の質の差はある。

 絡め手ならともかく真っ向から打ち合えるはずがないのだ。


 ――何かトリックがあるはず!


 そう考えるとアドラの心の引き出しに似たような状況シチュエーションがあったことを思い出す。

 まさかガイアスも……。


「おれの魔力を利用して戦っているのか!?」

「遅せぇよバカ」


 そう、ガイアスの言う通り確かに遅い。胸に一撃受けた時点ですぐに気づくべきだった。頭に血が上りすぎていて冷静に状況を分析することを放棄していたのだ。


「だからいっただろう 《勝利の剣》 を使えって。独りじゃ対策練れねえんだろ?」


 魔力盗用はマルディ・グラに一度やられている。

 よってその対策はすでにいくつか講じている。

 だが魔力を使って攻撃する以上、完全な対策というのは不可能だ。

 それこそ魔力を一切外に漏らさないようにするしか……。


「……そうか。あんたや蛇王が魔力を外部に放出しないのは盗用対策か」


 常に内部に魔力を封じておけば第三者に安易に流用されない。必要な時に必要な分だけ使えば余計な消耗も抑えられるし一石二鳥だ。


 理屈の上ではそうだが……そんな芸当できるわきゃねえだろッ!!


「化け物め、魔力はそんな簡単に出したり引っ込めたり借りパクできるもんじゃねえんだよ」

「んなこたぁねえよ。努力すりゃ誰だって出来るようになる」


 ガイアスは親指で己を指していった。


「俺の使える技術は誰だって使える。何しろ俺は凡庸な人狼の雑種だからな」


 ――天才の戯言だ。


 アドラは怒りで歯軋りする。

 自分は氷炎結界を使って自らの魔力をどうにか押さえ込むのがやっとだというのに、それをあっさり盗用して己以上に自在に使いこなして見せるとは……。


「……魔力を盗用できるといってもすべてじゃない」

「まあな。せいぜい一割か二割ってところだな」


 たったの二割でこの有様か。

 技術力に差がありすぎる。


 ――どうする?


 どうする。どうする。どうする?

 この怪物にどうやって立ち向えばいい?

 この鼻持ちならない天才にどうやって思い知らせてやればいい?


「……ひとりでは勝てないな」


 悔しいがそれは事実だろう。

 ガイアス数千年――あるいはそれ以上の研鑽の前ではアドラの技量など赤子同然。

 そこは認めて開き直るしかない。


「ならばふたりがかりならどうだ!?」


 アドラは叫ぶと同時に 《抹殺の悪威》 を解放する。

 今度は怒り任せに発散させるのではなく明確な意志を込めて現世に固定する。

 悪意は瞬く間に漆黒の餓狼となって顕現した。



「死術 《虚ろ餓狼》――ここから先は神の領域だッ!!」



 ガイアスの強さがアドラの運命を更に更に加速させる。

 決戦の第三幕が早くも開かれる。

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