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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第4章 魔界の覇王 Devil Overlord
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魔界頂上決戦③

「正直、魔界ここに来てから雑魚の相手ばかりでうんざりしてましてね」


 しゃべりながら掌に 《抹殺の悪威》 をかき集める。

 ただそれだけで一撃必殺の暴力となることをアドラは知っている。


「弱い者いじめは趣味じゃない。だからずっと気分が悪かった」


 溜まりに溜まった悪意の塊を、アドラは遠慮なくガイアスめがけて解き放った。


「当然、あんたは違うよなァ!」


 放った魔力塊をガイアスは半身になるだけであっさりとかわした。


「そんな直線的な攻撃当たらんぞ」

「だったらこれはどうですか!?」


 先ほど作った魔力塊を一気に十数個、空中に形成する。

 今のアドラにはこういった芸当も可能だ。


「これなら避けきれない!」


 アドラはすべての魔力塊を一斉に解き放った。

 空気を喰らいながら襲いかかる黒の脅威を、ガイアスは上体を反らして次々とかわしていく。

 しかし不安定な姿勢では、少し遅れて同時に飛ばした三つの悪意の塊は絶対にかわせない。


 ――直撃する!


 そう確信した攻撃は、しかしガイアスの蹴り一発で彼方、上空へと消えていった。


「最初にソレを見た時はさすがにビビったが、ネタが割れてる以上どうとでもなる」


 ――攻撃の軌道ベクトルを強制的に変更えたのかッ!!


 確かそういう魔術があると聞いたことがある。しかしそうとうな高等魔術だぞ。得意の真空魔術とも何の関連性もない。

 普段不器用とかいってるクセに魔術ならホント何でも使えるなこの人狼ひとは。


「さすがはガイアスさん。魔界最強の……いや、魔界最強だった男だ」

「今は違うっていいてぇのかい?」

「ええ。今日ここでチャンピオンベルトを返上してもらうことになりますので」


 アドラは再び構えると指を前後に動かし、ガイアスに挑発を返す。


「開催日未定だった魔界最強魔族決定戦。今ここでると決めたのでね」

「ん? 何だそりゃ?」

「あんたがやりてえっつったんだろ!」


 昔ガイアスが人狼族の最強を証明したいと言ったのでアドラが企画中の武闘大会。

 当の本人が忘れてるとは何事か。


「昔のことなんぞ綺麗さっぱり忘れたわ。魔界最強とかもう興味もねえ」

「いくら何でも変わりすぎでしょ。実はあんたのほうが偽者なんじゃないのか?」

「何かありゃ人なんて簡単に変わるもんだ。あんたも変わるべきさ。いつまでも過去をひきずってないでさぁ!」


 ノーモーションで放たれる空牙がアドラの不意をつく。


「……くっ」


 間一髪のところでガードが間に合ったが――この魔術、一切の殺意がない!


「ありえない! いったい何なんですかこの魔術!」

「これはまだ序の口。ルインとの死闘の果てに見出した魔の真髄の数々、あんたに存分に見せてやるよ」


 殺意を殺した攻撃はすべてアドラに通る。

 よって防御面のアドバンテージは消滅した。

 遠距離は不利だ。ならば至近距離で直接 《抹殺の悪威》 を叩き込むのみ。


「マジで殺す気でかかりますよ。武人なら死んでも怨みはないですよね?」

「……ああそうだな。かつての俺はその覚悟が薄かったな。決してなかったわけじゃねえんだけどな」


 今度はうって変わって小さく構えるガイアス。

 その身体からは先ほどとは違い、一切の魔力の流れが感じとれない。

 だからといって油断などできるはずもない。

 むしろかつての蛇王ジャラハを思い起こさせて身の毛がよだつほどだ。


「今は違う。ケンカするなら相手が誰だろうと常に生命がけさ。すべての運命を笑って受け入れるぜ」


 ――言葉とは裏腹に、今のあんたは最強の頂に近づいているのかもしれない。


 あるいはすでに蛇王の域にまで到達している可能性もある。

 確かめる必要がある。いや確かめたい。人類が持つ可能性を見てみたい。

 そのためには本気でぶつかる必要がある。


 ――全身全霊を込めて、この身体ごと!


 アドラは大地を蹴った。

 全身に禍々しい黒いオーラを纏いガイアスめがけて襲いかかる。



「死いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃッッ!!!」



 万力を以て拳を握る。

 そこに正真正銘の殺意を乗せて。

 安易なベクトル変換などさせはしない。


 すべての言い逃れを赦さぬ絶対防御無視。


 無慈悲な死神の審判。


 汝は有罪ギルティオア無罪ノットギルティか。



「ネえええええええええええええええええええええええええええぇぇぇっ!!!」



 最大最狂最悪。

 身体ごと放り込まれる一撃必殺の拳。

 アドラ渾身の 《抹殺の悪威》 が唸りをあげてガイアスに襲いかかる。



 空気を切り裂き死神の鎌がガイアスの鼻先まで迫る。

 その悪意が首から上を跡形もなく刈り飛ばさんとしたその瞬間、ガイアスは自らの拳でアドラの腕を下からかち上げた。


 ただそれだけのことで、アドラの拳は弾けるように軌道を反らした。


「え?」


 呆けている暇もなく胸に衝撃が走る。

 間髪入れずに放たれたガイアスの肘がアドラの心臓を的確に打ち抜いていた。


「がハッ!」


 あえなく後方に吹き飛びもんどりうって血反吐を吐く。

 外傷こそないが内から爆発するような衝撃が全身を襲った。

 何が起きたのか理解不能。まるで意味がわからない。


「……キレがイマイチだ。まだまだ修行が足らんか」


 ガイアスは涼しげな顔でそういいながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 アドラは口元を拭い、激しい怒りと共に立ち上がった。



「なるほど……理解した……いま、完全にッ!!」



 これが人類の可能性。

 これが人類の強さ。

 これが人類の恐ろしさ。



 吹き出す脂汗。

 全力で鳴らされる警鐘。

 アドラの本性である『悪』が吼える。



 アレは想定を遙かに越えた危険極まりない魔物だ。

 放置すれば間違いなく手がつけられなくなる。

 これ以上の成長を許してはいけない。

 絶対に生かしてはおくな。



 ――今ここで確実にその生命を摘みとれッ!! 

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