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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第4章 魔界の覇王 Devil Overlord
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魔界頂上決戦②

「なあアドラ様、そいつはいったい誰なんだい?」


 服と剣を投げ渡されたヒノワが状況を理解しきれずに訊ねてきた。


「魔王軍四天王ガイアス・ヴェイン。おれの魔術の師匠でもある」


 大層な肩書きを聞かされてヒノワは一瞬驚く――が、しばらくすると怪訝そうな顔つきで、


「どぉーみてもそんな大層な奴に見えねぇよ。どこにでもいる人狼族じゃん」


 とても失礼な発言をぶっ込んできた。


「甘く見てうっかり手を出すなよ。おまえらじゃ束になっても勝てん相手だ」

「そうかなぁ。試しにあたいにやらせてくれよ」

「いいから馬連れて下がれ。あの人狼ひと手加減下手くそだから死ぬぞマジで」


 アドラは久々の出陣で調子に乗っているヒノワの頭を平手で叩いた。


「ガイアス様、あの御方はいったい何者なのでしょうか?」


 一方、ルインもガイアスに似たようなことを訊ねていた。

 あんたちょっとだけだけど一緒に旅して会話もしただろ!


「さあな。だが魔界ここで最悪の存在の一角であることに間違いはねえよ」


 ガイアスの言葉を受けてルインはアドラの顔をマジマジと見つめるが、


「とてもそうは見えませんね。枯れ木のように貧相なお坊ちゃんです」


 向こうも負けじと失礼な発言で返してきた。


「邪魔なようでしたら私が処分いたしますが」

「やめとけ。時間制限のあるおまえじゃ絶対に勝てん」

「ですかね。解体バラすのに1秒もいらなそうに思えますが」


 薄ら笑いを浮かべるルイン。その頭にガイアスは拳骨を落とした。

 互いに無礼な女をパートナーに選んだものだ。


「口の悪い女で悪いな」

「いえいえこちらこそすいません」

「じゃあとっとと始めるか」

「ですね。時間も押してますし」


 シュメイトク軍の兵士たちが見守る中、アドラとガイアスは対峙した。

 師弟故に両者構えは同じ。

 だがしかし、それでも決定的な『差』はやはりあった。


 ――決して舐めてかかるわけではないけれど、


 こうして面と向かって対峙すると、ヒノワのいう通りどこからどう見ても一山いくらの人狼族の雑種としか思えない。

 この貧相な魔力から常識を逸脱した攻撃を次々と放ってくるのだから驚嘆の一言。舐めてかかって返り討ちに遭う者が後を絶たないのも頷ける。


 だが逆にいえば、気を緩めずにきちんと冷静に対処すれば、決して勝てない相手ではないということだ。


 ――おれは他の連中と同じ轍は踏まない!


 強い決意を胸にアドラはガイアスへとにじりよる。

 一撃必殺の間合いまで詰め寄るために。


「 《勝利の剣》 は使わねえのかい?」


 一方ガイアスはその場から一歩も動かない。

 悠然とした態度でアドラを待ち構える。


「使いませんよ。ガイアスさんと同条件で戦いたいですからね」

「やっぱおまえはアドラじゃねえな。あいつは半人前だが己を知っている」


 丸腰の相手に魔導兵器を使うような卑劣漢がアドラだというのであれば、確かに自分はアドラではない。

 それに剣を握ってようやく五分だといわんばかりの発言は、たとえ師といえどいささか不愉快だ。

 その高慢、改めさせる必要がある。


「ガイアスさんは少し……おれのことを舐めすぎなのでは!?」


 言葉と同時にアドラは跳んだ。

 正攻法で行くと見せかけての反撃のし辛い上空からの奇襲。


 ――見よう見まねの聖王流空中殺法ッ!!


 右脚を剣に見立てての踵落とし。

 だが十字受けであっさりと止められてしまった。

 同時に対空のアッパーが飛んで来るがこちらも負けじと掌で受け止める。


 ――剣はもう一振りある!


 右がダメなら今度は左。

 空中で姿勢を変えての左脚での回し蹴り。もちろん手加減は一切ない。凡庸な魔族なら真剣の如く二つにちぎれ飛ぶ。あるいは跡形もなく吹き飛ぶかだろう。

 だがこの一撃も腰を落としたガードで簡単に防がれた。なんつう堅守だ。


 ――やっぱりエリのようにはいかないか!


 これ以上空中にはいられないと悟ったアドラは大人しく着地することにした。

 だが転んでもただでは起きぬ。着地と同時に懐に飛び込みガイアスめがけて正拳突きを放つ。


 アドラ渾身の一撃にガイアスもまた正拳で応じた。

 両者の拳がぶつかり合うと凄まじい魔力の嵐が巻き起こる。


「く……っ!」


 激しい衝撃で弾き飛ばされるもどうにか空中で体勢を整え着地する。

 ガイアスも同様に弾け飛んでいたがさも当然のように両足で地に立っている。


「流石にやるな」


 そういってガイアスは笑う。


「互角の攻防ですね」


 アドラもお返しに笑ってみせた……が、内心ではまるで笑い事ではなかった。


 ――なんで互角なんだ!?


 魔力では完全にこちらが上回っているのにどうしてこうなる。

 互角といってみたものの実のところちょっと負けてるまである。

 まったくもって訳がわからん。


 訳がわからんということは、両者の技量にそれほどの差があるということだ。

 アドラが知らない術もきっとたくさんあるに違いない。


 ――ちゃんと弟子にすべての技を授けとけよ、このケチ師匠!


 当然だがそんな義務などまるでない。完全に逆恨みである。


「……ジャラハさんがあなたと闘りあった時もきっとこんな気分だったんでしょうね」


 さすがに逆恨みの自覚はあるので口にはせず、代わりに少しだけ強がってみせた。


「だけど、それでも最上級魔族おれたちには決して敵いませんよ」


 覚悟を決めたアドラは顔を掌で覆う。

 覆った手をゆっくりと下ろした時、その氷炎の双眸には邪なる黒の輝きがあった。



「正真正銘、本気で行きます」



 解き放たれた 《抹殺の悪威》 が大地と大気を侵食する。

 その強大極まる魔の暴力に、呑気に観戦していたシュメイトク兵たちが恐怖で震え上がった。


「全軍後方に待避。巻き込まれたくなかったらな」


 アドラが命じるよりも早く、兵の多くは脇目も振らずに逃げ出していた。


 だからといって怒るような事はしない。

 この程度で我を忘れて逃げ出すような者は要らない。

 兵士を辞めて家族と団らんでもしていればいい。

 人としてはそちらのほうが正しい。


 ここから先は魔の領域だ。


「ガイアスさんも余裕こいてないで逃げたほうがいいんじゃないですか?」


 漆黒の悪意が魔界を包む。

 歩くだけで大地がえぐれ空気がドス黒く変色する。


「あなたもこの魔力のヤバさは知っているでしょう。これを見てもまだおれがアドラじゃないとうそぶけますかね」


 万物を否定する最悪の魔力。その圧倒的脅威を目前に――しかしガイアスはやはり余裕の態度を崩さない。


「あんたはアドラの顔とアドラの人格とアドラの記憶とアドラの魔力を持っている。だがそれでもあんたはアドラではない」


 そういってガイアスは構えを解く。


「その証拠に、事ここに至っても俺の魂はまるで震えやしねぇ」


 そしてあろうことか早くかかって来いと手招きしてくるのだ。


「モモさんは成長してるなどといってたが――おれの評価は真逆だ。あんたは成長なんかしちゃいない。これっぽっちもな。魔王城で最初に出会った頃のまんまだ」

「……」

「御託はいいからかかってきな。格の違いって奴を見せてやるからさ」

「……言葉に、責任を持ってくださいよ……ガイアスさん。いや――」


 身内相手にこの力を曝け出すことに強い抵抗があったが、それもようやく吹っ切ることができた。

 デスクワークで鈍っていた身体が久々に熱くなる。



「勝負だ! ガイアス・ヴェイン!!」



 獣のように吼えるとアドラはガイアスめがけて己が本来の魔力を行使した。

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