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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第4章 魔界の覇王 Devil Overlord
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立ち塞がる者

「では行ってくる」


 直属の親衛隊のみを供にアドラはシュメイトク出向の準備を整えていた。

 地上へ進出するには黄泉比良坂を通る必要がある。そこにもっとも近いシュメイトクを軍事拠点とすることに決めたのだ。


「留守は頼むぞイビル」


 出迎えにきたイビルに声をかけると彼は敬礼で応じた。


「炎滅帝の留守はお任せください。身命を賭して御国を守護いたします」

「おまえの言葉は本当に軽い。頭はいいが王にも家臣にも向かんな」


 そういってアドラは帯刀していた耐熱刀を外し、すぐ後ろに控えていたバルザックに投げ渡す。


「おまえをイビルの監視役に任命する。そいつが不穏な動きをするようなら斬れ」

「それは構いませんが……刀がないと炎滅帝の御身に危険があるのでは?」


 放り投げられた刀を慌てて両手で受け止めながらバルザックが訊く。


「そんなナマクラを使うぐらいなら素手のほうがナンボかマシさ」


 くだらない質問を鼻で笑いながら、アドラは腰に提げたもう一振りの剣に触れた。


「おれの相棒はこの 《勝利の剣》 のみ。こいつと共に在る限りおれは無敵だ」


 バルザックもアレックスと同様、今はアドラに心酔している。刀と権利を与えておけばイビルに好き勝手させることはあるまい。

 後顧の憂いを断ったアドラはヴェルゼブブを出立した。



                   ※



 約半年ぶりにシュメイトクへの帰還を果たしたアドラは、果たしてヴェルゼブブ以上の歓待を受けた。



「アドラ帝万歳!!」

「アドラ帝万歳!!」

「アドラ帝万歳!!」



 事前に通達もしていないにも関わらず国民総出の万歳三唱。

 その中をアドラは手を振ることなく無言で進む。


 ――今だけだ。


 そう、今だけは英雄を演じよう。

 これは世界を均すために必要なことだから。


 数年後にはこの歓声が罵倒へと変わるだろう。

 それでなんとか釣り合いが取れるだろう。

 それでどうにか赦されるだろう。


 ――リドル、君が望んだ世界はもうすぐそこだ。


 人類すべてを巻き込んだ大戦争。

 きっとサタンもろとも何もかも綺麗さっぱり消し飛ぶだろう。

 平らになった世界には真の平等があるはずだ。真の自由があるはずだ。

 それをこの目で確かめられないことだけが少し心残りだが。



「総員戦闘準備ッ! 攻撃目標はヴァーチェの首都グロリア!!」



 トマル城へ入城するなりアドラは配下を召集してそう命じた。



「戦わなくては生き残れない! 我々はサタンに奪われた世界を取り戻すッ!!!」



 ここでもアドラはすべての事情を説明した。

 言葉というのは何を言うかではなく誰が言うかによって決まる。

 大英雄へと化けた彼の言葉は、例え意味がわからずともシュメイトクの民にとっては絶対の正義だった。



「戦え! 抗え!! 逆らえ!!! 我らはサタンの家畜ではない!! 人類の尊厳は武力ちからによって示すしかないのだ!!」



 アドラの号令ひとつで戦力は瞬く間に集まった。

 狭くて息苦しい魔界から広大で美しい地上に飛び出して、魔族たちが何もしないはずがない。相応の略奪行為は行われることだろう。

 だがそんなことは大事の前の小事。この先何が起きようともいずれ悪しきは淘汰され、あるべき形となる。

 混沌の果てに正しいモノだけが残るのだ。


 清浄で美しい公明正大な世界――後世にそれを残して消え去ろう。



「明日の魔陽が昇ると同時に地上への侵略を開始するッ!!!」



 アドラは怒っていた。

 このような形でしか約束を果たせぬ自分自身に。

 ならば最期まで走り続けるしかない。

 せめて滅びて詫びるしかない。


 死神は止まれない。止める気もない。

 死神は誰にも止められない。止められるものなら誰か止めてみろ。


 進め。進め。進め。

 ネズミを引き連れ大海まで。

 そして自らも共に沈もう。

 死の覚悟があればすべてが赦される。



 だがそんな無敵の死神の前に悠然と立ち塞がる者がいた。



 孔雀柄のコートを風にはためかせるその様は、まるでかつてのアドラの如く。

 大柄の体躯だがかつての荒々しさは嘘のように消え去り、静かに佇むその姿には深い思慮すら感じさせた。



 その男の名は――

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