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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第4章 魔界の覇王 Devil Overlord
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帰還

 魔界六大王家の次席、ショーワルド家の滅亡により解散した反乱軍。

 しかし魔界の大貴族カンタールの長子、フォメット・ゴゥト・アスフォルグを中心にわずか半年で再編成する運びとなった。


 シュメイトクを拠点とし各地方に使者を送り魔王軍に叛意を持つ者をかき集め、同時にルキフゲが盗み出した設計図を元に魔導兵器の開発に着手する。

 順調に行けば十年ほどで魔王軍に対抗できる戦力が整う予定だった。


 ――しかし悲劇はいつも突然やってくる。



「はぁいフォメット様、はじめましてぇ。ステンノともうしまぁす♪」



 反乱軍の元幹部を名乗る女性は、その色香で瞬く間にフォメットを籠絡し、シュメイトクの王妃となった。

 反乱軍の自壊はそこから始まることとなる。


「こんな古臭い城よりもっと素敵な場所に住みたいわぁ」


 ステンノの要望により、国の中心に城の数倍はある豪邸が建てられた。


「素敵な召し物が着たいわぁ」


 ステンノの請求により、魔界中からファッションデザイナーが呼び寄せられた。


「ド田舎すぎて娯楽が足りませんわぁ」


 ステンノの希望により、移住区の一部を取り壊し歓楽街が生まれた。


 当然ながら、彼女の欲求を満たすための金は、国民から搾取されることとなる。

 ただでさえ戦争準備のために重税を課せられていたにも関わらず、そこに更に上乗せさせられたのだ。当然国民から大きな反発があったが、ステンノは異論を唱える者たちをすべて処刑、独裁体制を築く。シュメイトクは暗黒時代へと突入した。


 甘い汁を吸えたのは一部の親ステンノ派のみで、国民は疲弊し、貴族は呆れて軍を離脱する者が続出。町は荒れ果て治安は乱れ、盗賊たちが跋扈するようになる。

 そのような惨状では『反乱軍への反乱軍』が生まれるのにそう長い時間はかからなかった。


 元シュメイトク兵の女傑ヒノワ・ルノワールを中心に誕生したレジスタンスは圧倒的な民意を後ろ盾に一大勢力と化し、フォメット指揮するシュメイトク軍を瞬く間に打倒し政権を簒奪さんだつしたのだ。



「……で、現在は虜囚となって沙汰を待ってるわけか」

「やっちまったZe」


 再び座敷牢に投獄されたフォメットが可愛らしく舌を出す。


「やっちまったぜ、じゃねえよッ!!」


 アドラは牢をぶっ叩いてフォメットを怒鳴りつけた。

 反省の色まるでなしだ。


「フォメくん……今日という今日は、本当に見損なったよ。袂を分けたとはいえ魔界の未来のためを思って動いていたとばかり思っていたのに……」

「いやいや待ってくれブラザー! オレっちマジで魔界のために動いてたんだYo! それがどーいうわけかあんな女の口車に乗って……きっと魅了魔術をかけられていたに違いねぇZe!」

「大魔族が魔術で洗脳されていたとか一生モノの恥だよ。反乱軍の存在意義に関わるからあまり口にしないほうがいい」

「Oh……そんなこといわずに助けてくれYo!!」

「おれにそんな権限ないよ。命乞いならヒノワさんにしてくれ」


 冷たく吐き捨ててからアドラは、泣きじゃくるフォメットを無視して座敷牢を後にした。

 口ではああいったものの、洗脳されていたというのは事実だろうし、助命を乞うことぐらいはしようと思う。これ以上、目の前で友人を失うのは避けたい。


 いちおう大貴族だから殺すと後々面倒になるって言い分で何とかならないだろうか。

 ならないだろうなぁ……。



                   ※



「ところで、なんでおれが上座なんでしょうか?」


 座敷牢を出るとなぜか厚遇で迎えられたのでアドラは不思議に思って訊ねた。

 下座にいるヒノワとルウィードは一度顔を見合わせてから、ルウィードの方が代表して答える。


「何故と申されましても、アドラ様はここトマル城の若君ですので」


 先の戦で奇跡的に無事だったトマル城。ステンノが古臭い城を嫌って豪邸に住んでいたのが不幸中の幸いだったわけだが……。


「革命は成功したのでしょう。だったらこの城はあなたたちのモノだ。リーダーのヒノワさんが城主となればいい」


 そういってアドラはヒノワのほうを見る。

 どうも先ほど戦った赤髪の少女がヒノワらしい。ちょっと前まであたいの獲物だとか何とかいって意気込んでいたが、今では愛想笑いを浮かべてヘコヘコしてる。


「悪政に耐えきれずに蜂起はしたけど、あたいはもともと一兵卒でそういうの柄じゃないからさ。アドラ坊ちゃんが戻ってきたのならそっち方面は任せるよ」

「フォメットに任せて一度痛い目にあったことをもう忘れたんですか。自分の理想とする国は自らの手で作るべきだ」

「坊ちゃんの人柄はルウィードさんから伺ってるから大丈夫。何度もいうけどあたいはそういう難しい話は無理なんだ。坊ちゃんならみんな納得してくれるし、次のシュメイトク王はあんたしかいねえよ」

「知ってると思うけど、おれは現在魔王軍の最高幹部だよ。おれに従うってことは魔王軍に従うってことだと理解したうえでいってる?」

「もちろん。反乱軍の片棒を担ぐのはもうコリゴリ。うちらは魔王軍に従うわ」


 なるほどヒノワのほうは理解した。

 彼女は典型的な武人で戦うこと以外に取り柄がない。自身もそれを理解しておりきちんと分を弁えている。

 だがもう一方のほうがよくわからない。

 アドラが一瞥するとルウィードは深々と頭を下げた。


「私が間違っておりました。アドラ様の命を破り、フォメットなるうつけ者を城主として祭り上げるなど、今思えば不明の極み。生涯最大の不覚でございます」

「そこまで理解してるなら話は早い。おれが城主に戻るとなれば、おれは裏切ったあなたを罰さなくてならない。無茶苦茶になった国の責任を追求せざるをえない」

「無論、覚悟の上のことでございます」

「嘘だね。おれが甘ったれの坊ちゃんだからどうせ許すと思っている」


 アドラは立ち上がると剣を抜いてルウィードに突きつける。


「おれは地上に出て変わった。昔と同じだと思わないほうがいい。罰すべき時は躊躇なく罰するぞ」

「仰せのままに」


 そういってルウィードは自ら首を差し出した。


「……言い訳があるなら聞こう」

「ございません」


 頭を下げたままのルウィードにアドラは静かに剣を振り上げる。


「まあ許すんだけどね。甘ったれの坊ちゃんだから」


 ――どうせじいさんの命令だろうし。


 アドラは嘆息して剣を収めると再び座布団に座った。


「わかった、城主代理に戻ろう。しかしまあものの見事にぶっ壊したもんだ。こりゃ復興するのが難儀だぞ」


 その言葉を聞いたルウィードは、すぐに顔を上げて歓喜の涙を流す。


「ありがとうございますアドラ様! この御恩は決して忘れません!」

「恩はどうでもいいけど死ぬ気で働いてくれよ。おれはこの件だけに関わってはいられないんだ」


 魔王軍に滅ぼされていなかったのは幸いだが、状況的には似たようなもの。

 それでも民への被害は少ないとのことだし、何より魔王軍と敵対せずに済むのだから大助かりだ。

 ルウィードにはルウィードの思惑があるのだろうが、どのみちこの国を建て直すことができるのは自分しかいない。


 ――はぁ……憂鬱だなぁ。


 山積みの仕事よりまた国民の前でお披露目会的なものをやるのが嫌で、アドラは大きなため息をついた。

今週の更新はここまでになります

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