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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第3章 死神と邪竜 Death and Evil Dragon
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親友

「はあああああああああああ!? 何ですかそのぶっ飛んだ話はぁ!!」


 アドラからすべての事情を聞いたリドルは驚き呆れながらハンドルを叩いた。


「ぼくは正直にすべてを話して欲しいっていいましたよね! 訳のわからないウソで煙に巻くのはやめてくださいよ!」

「信じられないのも無理はないと思うけど、すべて本当の話なんだ」

「じゃあ、なんですか! ぼくがヒエロでゾンビに襲われてヒーヒーいってたのも、舞踏会場でラバースーツのおっさんに襲われてギャーギャーいってたのも、全部あなたが原因だとでもいうんですか!?」

「面目次第もない……」


 アドラは誠心誠意を込めて頭を下げる。

 今の彼にはそれ以外にできることがない。


 その様子を見たリドルはハンドルをゴンゴンと叩きながらも、最後はすべてを飲み込んだかのように頷いた。


「で……アドラさんは今後、サタンと結託して死神にでもなって、人類を支配したりするんですかね?」

「いやいや! それは絶対ないから! 向こうが勝手に言ってるだけ!」

「まあ、気の弱いアドラさんにそれは無理ですよねぇ」

「そりゃそうだよ。ていうかできないよ」

「でも女神の子だってのは事実なんですよね」

「それだけはもう認めざるをえない。何しろ女神の槍に選ばれてしまったから」


 アドラは大きく肩を落としながらうなだれる。


「覚悟はしてたつもりだけれど、想像以上に大きな真実にぶち当たってしまって、正直かなり動揺している。すべてがウソだったらどんなに良かったことか……」

「ぼくも予想のはるか斜め上をぶっ飛んだ、おとぎ話じみた話を聞かされてめちゃくちゃ困惑してますよ」

「ゴメン、おれより君のほうがよほど災難だったね。今からでも遅くない。おれを捨てて今すぐ地元に帰るべきだ」


 アドラがいうとリドルは苦笑いしながら首を振る。


「どうせ乗りかかった船です。最後まで付き合いますよ」

「それはダメだ! これ以上、君をおれの事情に巻き込めない!」

「ぼくはこんな性格ですし、地元じゃ結構ないじめられっ子でしてね。仲のいい友だちもろくにいなかったんですよ」

「……?」

「だから、数少ない友だちは大事する主義でしてね」


 リドルはアドラを一瞥してから優しい口調でいう。


「アドラさんがぼくのこと友だちだっていってくれて、実は結構嬉しかったんですよ」

「リドルくん、おれは……」

「サタンがどうとか女神がどうとか、ぼくにはよくわからないしどうでもいい。困っている友だちを放ってはおけない。今はただそれだけです」


 ――……ありがとう、本当に。


 リドルの純粋な厚意にアドラは感極まり言葉もなかった。



 そうだ――何を悩むことがあったのか。



 リドルの言うとおりだ。

 神の責任なんてどうだっていい。

 世界がどうなったって構いやしない。

 サタンのいう正しさなんてクソ食らえだ。

 おれは、おれとおれの大事な者を守るために戦うだけだ。



「ひとつだけ訂正するけど、おれは君のことを友だちだとは思ってないよ」

「ええ……ここまできてそれはちょっと酷くないですか?」


 落胆するリドルにアドラは微笑みながら告げる。


「君はおれの親友だよ。地上に来て初めてできた純粋な人間の親友だ。この恩は決して忘れない。君が困っているときはどこにいようと何を置いても絶対に駆けつける」


 アドラの長い人生において心から親友と呼べる人物が果たしてどれだけいただろうか。

 ボルドイの住民は優しくしてくれたが自分の事情に必要以上に踏み込ませはしなかった。

 親友だと思っていたフォメットも結局自分の想いを理解してはくれなかった。


 振り返れば自分のことを本当に理解してくれた友は一人もいなかったんじゃないだろうかと思えてくる。

 ここまで腹を割って話して、それでもなお付き合ってくれるというリドルは、地上どころか初めてできた親友なのではなかろうか。


「いやいやアドラさん、そこまで行くとちょっと重いんで、勘弁してくれませんかね」

「そうかな?」

「そうですよ。重すぎて怖いまでありますね。行き過ぎてストーカーにならないでくださいよ」

「そういう君だって大概だと思うんだけど。最後まで付き合うっていうけど、テロリストの逃亡を助けたら君だって重罪人だよ。一体これからどうする気なんだい」

「あーそういやそうっすねぇ。成り行きとはいえとんでもないことになってますねぇ。でもまあ、適当に逃げてりゃ何とかなるんじゃないですかね」

「逆にリドルくんは色々と軽すぎるんじゃないの?」

「そうかも。じゃあ二人一緒ならちょうどいいかもしれませんね」


 互いに笑い合いながら、車は走り続ける。

 のっぴきならない状況下ではあるものの、その時のアドラは確かに幸福だった。

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