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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第3章 死神と邪竜 Death and Evil Dragon
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闇の歴史の遺産

 ウリエルに案内されてやってきた場所は、かの有名な『真神戦争画』だ。

 ラースとネメシスの激突を描いた最初の壁画であるといわれている。

 現在は粉々になっているため全容がわかりにくいが、人の手では恐れ多いということであえて復元はしておらず、破片をショーケースに収めて展示してある。

 巷に出回っている真神戦争の壁画は、この破片を参考に、失われて足りていない部分に様々なアレンジを加えて描かれている。


「この博物館には様々な聖遺物が展示されています。ですがもうひとつ隠された顔があることをご存じでしょうか」


 ウリエルの言葉にアドラは首を振る。

 博物館の存在すら最近知ったばかりなのだ。知るはずもない。


「光と闇は表裏一体。エルエリオンの下にサタンランドがあるように、この由緒正しき博物館の下にもまた、衆目に晒せぬモノが隠されているのです」


 ウリエルが床に手を置くと魔法陣が現れ、地下へと続く隠し階段が出現した。

 アドラは導かれるままにウリエルと共に階段を降りる。



 長い階段を降りきると、そこには目を疑う風景が広がっていた。



 培養液に漬かる奇形の生物。

 死者を使役する術式が描かれたパピルス。

 禍々しい魔力を放つ武具の数々。



 華々しい博物館の下に、まさかこのようなアンダーワールドがあるとは……。


「博物館に展示されている聖遺物を光とするならば、ここはヴァーチェの闇の歴史の保管場所といったところですね」


 魔導生物キメラ死霊魔術ネクロマンシー殺戮魔具ジェノサイダー

 そのすべてがエルエリオンでは禁忌とされているもの。

 これはとんでもないスキャンダルだぞ。


「やりましたね! これを世に発表すればグロリアの信用を地に堕とせますよ!」

「それはおそらく無理でしょう。隠蔽工作はグロリアの十八番。もみ消されて終わるのがオチです」

「これだけハッキリした物的証拠があってもダメなんですか?」

「正直、この手の違法行為に関しては我々も他人のことはいえませんからね。この中には我々が関わっている物も多々ありますし、本気で糾弾しようものなら自分たちの首も締まってしまいます」

「ええ……」


 アドラは眉をひそめる。

 なんだか急にお近づきになりたくなくなってきた。


「そのような顔をしないでください。これらを禁忌と断ずるなら、あなたがた魔界の魔族は、存在そのものが最悪の禁忌ということになりますよ?」

「いやまあ、それはそうなんですけど……」

「重要なのは何を造ったかではなく何に使うかだと愚考します。我々が貴方に問いたいのもまさにそれなのです」


 ウリエルは話しながら地下室の更に奥まった場所へと向かっていく。

 しばらく進んでいくと急に歩を止めてこちらに向き直る。


「博物館の表看板が 《アスカロン》 だとすれば、これは裏看板――いえ、この博物館の存在意義そのものといえる代物かもしれません」


 それはアドラでも一目でわかるほど厳重に保管されている何かだった。

 呪鎖で縛られた魔匣はこに更に超高度な封印結界が幾重にも施されている。

 これではこちらからは手の出しようがない。


「貴方をグロリアにご招待した理由がこれです」

「これですとかいわれても……何ですかこれは」

「推測でよければいくらでもお答えしますが、何の意味もないでしょう。もしあなたが真に女神の仔であれば、魔匣の中身がわかるはずです」


 ――わかんねぇーよ!!


 おれはエスパーじゃねえっつうの!

 見えないものが見えたりなんてしないの!

 つうかなんでどいつもこいつもおれが女神の子供だって前提で話進めてんの?

 おれ一言もそんなこといってないよね?

 違ってたらどうすんの?

 てかぜんぜん違うわ!!

 おれのカーちゃんはイザベルっていう名の魔族なの!

 閻魔は地獄の神みたいなもんだから女神っちゃ女神かもしんねーけどさ!


 ……と、いってやりたいアドラだったが、今日のところは空気を読んで黙っておくことにした。


 勝手に失望されて博物館から放り出されても困るからだ。


「それで、おれはどうすればいいんでしょうか?」

「……魔匣に反応はなし、ですか。とりあえず、貴方の魔力で封印を破壊してください。中身にも封印が施されているでしょうが、それは戻ってからゆっくりと開封作業を――」


 ウリエルの言葉は魔匣が破裂する音によって遮られた。


 あれほど厳重な封印が、誰の手も借りずに勝手に解除されていた。


 本体に直接かけられた呪印さえも、すでに粉々に打ち砕かれ跡形もなくなっている。



 ――『ソレ』は最初から封印などされていなかった。



 ただ博物館そこで、静かに待っていただけなのだ。

 新たな主が運命に導かれ、この地へと訪れる日が来るのを。



 視る者の正気を削りかねないほどの邪気を放ち続ける八つ又の槍。

 神話に明るい者なら誰もがその名を思い浮かべるだろう。



「 《八叉冥矛クラーケン》 ――やはりこの博物館に保管されていたか」



 ウリエルが独りごちるように槍の名を口にする。

 アドラはそこまで神話に詳しいわけではないが、それでもこの槍の所有者ぐらいは知っている。


 ――月星神ネメシスの槍! 実在していたのか!!


 偽物かどうか疑うのも馬鹿馬鹿しくなるこの圧倒的スケール。

 その邪悪さに今にも心が押し潰されそうだ。


「こ、こ、こ、こんなものをおれに見せて、いったい何を企んでいるんですか!?」

「我々は何も企んではいません。あるべきモノをあるべきものの所へ――貴方がこの槍を手にして何を為すか、知りたいのはむしろ我々なのです」


 邪神の魔槍の刃が、ゆっくりとアドラの鼻先に向けられる。

 アドラが危機感を感じると同時に 《八叉冥矛》 はこちらに向かって猛烈な勢いで突っ込んできた。


「え!? ちょ、ちょ、ちょっ、ちょっと待っ――――ッ!!」


 飛来した魔槍をアドラが慌てて掴んで止める。

 掴まれた槍は掌から吸収されるようにアドラの体内なかへと消えていった。


 ――わ、わけがわからん……。


 今ひとつ状況が飲み込めず何度も首を捻るアドラ。

 だが事態はアドラの理解を待たずに進行する。



「おめでとうございます。これであなたも正式に次代の神たる資格を得ました」



 静寂の地下室に響き渡る場違いな拍手。

 アドラは戸惑いながらも手の鳴るほうへゆっくりと振り向く。

今週の更新はここまでとなります

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