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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第3章 死神と邪竜 Death and Evil Dragon
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翻る者①

「ひとつお聞きしていいですか。貴女は、なぜ私が裏切り者だと?」


 覚悟を決めたリバーシがゆっくりと聖剣を抜く。


「諸事情により第一級聖騎士の経歴をすべて洗ったことがあります。その時に気づきました。リバーシさんがグロリアに情報を流していることにね」


 シルヴェンも応じて 《ケラウノス》 をリバーシに突きつける。

 諸事情が婿探しというしょうもない理由だということはおくびにも出さずに。


「あなた出身がグロリアですし、団内の関係者を調査したらバレバレでした。ちなみにオズワルド団長もあなたの正体に気づいていますよ。『スパイじゃなかったら重用するのにホントもったいない』といつも嘆いておられました。心中お察しします」


 衝撃の事実にリバーシは頭を抱えたくなる。

 まさかここまで筒抜けだとは思っていなかったのだ。


「なるほど……私は泳がされていたというわけですか」

「それもありますけど単純に聖騎士団は万年人手不足なので。働いてくれる内は不問にしていたんですよ。うちはスパイには大らかな方なので」


 なんたる非常識。リバーシは思わず苦笑してしまう。


「そういえばそうでしたね。聖騎士団はそういうところです。だから私はあそこが反吐が出るほど嫌いだった」

「ですよね。同感です。心中お察しします」

「貴女は比較的マトモな方だと思っていましたが、残念というかやはりというか、そんなこともありませんでしたね。そんな重要な情報を当の本人に漏らしてしまうなんてどうかしていますよ」

「えっ、そうですか?」


 シルヴェンは少し考える素振りを見せるが、すぐにあっけらかんと答える。


「特に重要でもないし問題ないでしょう。あなた程度の話なんて」


 その発言を侮辱と認識したリバーシはシルヴェンに斬りかかった。


「とりあえず、貴女の口を封じさせてもらいます」

「できますかね。リバーシさんに」


 リバーシの剣閃が夜に舞う。

 シルヴェンがそれを真正面から受け止める。

 誰もいない駐屯所の前で両者激しく斬り結ぶ。


「失礼なのであまりこのようなことは口にしたくはないのですが……リバーシさんって第一級の中で一番弱いと思うのですよ」


 だが互角の攻防に思えたのはわずかな間だけ。シルヴェンの剣圧にリバーシはじわじわと押されていく。


「常識的に考えて、独りで私の相手をするのは荷が重いのでは?」


 ぶつかる剣が火花を散らす。

 鍔競り合うが体格ではるかに劣るはずの相手になぜか敵わない。どんどん押し込まれていつの間にか壁際まで追い込まれていた。

 同じ第一級聖騎士とはいえ二人の聖力の差は歴然だった。


「降参して投降すべきと提案します。私も同僚を殺めたくはありませんしね」

「確かに、常識的に考えたら、私独りでは貴女にはとうてい及ばない」


 歯ぎしりをしながら、しかしリバーシは不敵な笑みを浮かべる。


「ならば二人がかりで殺るしかないでしょうねッ!!」


 ――――ッ!!


 次の瞬間、シルヴェンの剣にかかる圧力が倍に膨れ上がった。

 さっきまで押していたのが嘘のようにあっさりと後方に弾き飛ばされる。


「どうやら私の奥の手までは知らなかったようですね」


 リバーシから放たれる禍々しい気配は明らかに魔力。先ほどまでの美しい聖力は微塵も感じない。

 聖力の消失に伴い姿形もみるみる内に変貌していく。


 明るいブラウンヘアーがダークグレイに。

 純白の聖鎧が漆黒の魔鎧に。

 聖剣もすでに汚染され魔剣と化している。

 まるで別人かと見紛わんばかりだ。


()()()()()()。ワタシの名は 《黒死の一三翼》 “ひるがえる者” リバーシ・ヴール。ウリエル暗殺部隊のサブリーダーよ」


 そういってケラケラと大笑いする。

 普段の気品溢れる勇者の姿は影も形もない。まさしく魔女だ。


「なるほど、勇者の聖気を封印することで、生来人が持つ魔力を使用可能にできるのですね。なかなか面白い芸です」

「そうよぉ。つまりこっちがアタシの本来の姿ってわけ」


 聖と魔、二つの異能を両方使える特異体質だ。

 歳若いシルヴェンはこういう手合いと闘った経験がない。


「勇者のあなたを相手にするよりは楽しそうですね。不足がないかどうかはこの目で見てから判断いたします」

「あまりナメないほうがいいわよぉ。あなたはこれから 《黒死の一三翼》 の本当の恐ろしさを知ることになる」


 戦闘態勢に移行するリバーシを見てシルヴェンもまた剣を構える。

 詰まらない捕り物になるかと思ったが、どうやら少しは勉強になりそうだ。

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