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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第3章 死神と邪竜 Death and Evil Dragon
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地上の覇者

 マルディに荒らされた集団墓地はボランティアで集まった市民の協力もあり急速に復興が進んでいた。

 アドラはヒエロを出立する前に墓地に立ち寄ることを望んだ。


 今回のパンデミックの責任の一端は自分たちにある。

 巻き込まれ生命を落とした市民たちにはもうしわけない気持ちで一杯だ。

 この地に留まり罪を償うことはかなわぬが、せめて追悼の意だけは示したかった。


 アドラは修繕された墓ひとつひとつに祈りを捧げていく。

 しばらくそれを続けていくとモモに杖でぶん殴られた。


「日が暮れるわボケェ!」

「いや、しかしですね……」

「女々しい奴め。そういうのはヒマ人が自分を慰めるためにやるものだ。そんな非生産的なことをしとるヒマがあるのならちゃっちゃと先に行くぞ。死者ではなく今を生きる者のために働け!」

「……はい」


 言い方は悪いがモモの言葉は正論だろう。

 アドラはひとつずつ祈りを捧げるのを諦めて、今回の事件の犠牲者全員に哀悼の辞を告げることでおわらせる。


「あ、でも後ひとつだけ。どうしても見ておきたい墓がありまして」


 そういってアドラがやってきたのは墓地の隅にある小さな墓だった。

 墓碑銘は刻まれていない。


「誰の墓だ?」


 モモが訊くとアドラは少し顔を強ばらせていう。


「マルディ・グラの墓ですよ。まだ遺体は入っていませんけどね。合議の結果、彼もここで眠ることが赦されました」


 モモは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得してうなづく。


「なるほど、自分が直接手をかけた相手だからか」

「殺してませんよ! 殺されたんです! 事情は説明しましたよね!?」

「だったらなんでわざわざ墓を参りにきた」

「それは、その……袖振り合うも多生の縁ってやつですよ」

「なんだそりゃ」


 呆れるモモから逃げるように目をそらしアドラはマルディの墓を見る。


 マルディはヴァーチェに来て初めて人間の強さを痛感した相手だった。

 極悪人ではあるがその圧倒的なネクロマンシー技術は地上地下に並ぶ者なし。

 祈ることはしないが個人的にその実力に敬意を表することぐらいは許されるだろう。


 ――その力を世のため人のために使ってくれたなら。


 すでに終わったこととはいえ、そう思わずにはいられない。


 やはり少しだけ祈ろう。

 来世では心健やかに。隣人を害する邪念なきよう……。


「モモさん、人間は恐ろしいですね」

「まあな。何しろ『地上の覇者』だからな」


 この世には強大な力を有する種族がゴマンといる。

 だがそれらを押しのけて地上でもっとも繁栄しているのは力なき人間種だ。


「マルディ自身はたいした術者ではない。魔力の質も量も平々凡々だ。天才的な閃きもない。だが奴と奴が束ねる研究チームの努力と研鑽は並大抵のものではなかったであろうな」


 三人寄れば文殊の知恵。

 その深謀は学問の神に匹敵するという。


 ならば十人寄ればどうなるのか。


 百人なら? 千人なら? 万人なら?


 それを体現してみせたのが人間という種族。

 ひとつひとつは脆弱なれど集まり固まれば神をも越える大いなる生命体と化す。


 それが人間種――万物の霊長にして地上の覇者の正体だ。


「数多の血と汗は天才の独力を凌駕する。アドラよ、おぬしは確かに世界最強の悪魔と呼べる存在かもしれんが……『人間』と正面からぶつかれば決して勝てんぞ」

「もともとそう思っていましたけど、認識が甘かったのは間違いないです。その言葉、肝に銘じます」

「それを肌で感じたのであれば、この旅は有意義なものであった。わざわざ遠回りして来た甲斐があったというものだ」


 モモはそう告げるとアドラに背を向け無言で催促する。

 名残惜しいがそろそろ出発の時間だ。


「あ、ちなみに超天才の妾は凡人どもの血のにじむような努力を鼻で笑いながら一蹴するから。そのことも肝に銘じておけ」

「せっかくいい話をしてたのに全部台無しですね」

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