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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第3章 死神と邪竜 Death and Evil Dragon
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最強魔族決定戦

 ジャラハは羽ペンを取ると神判の羊皮紙に文章をしたためる。


「――まっ、こんなところか。あんまり厳しくすると部下や家族が可哀想だからな」


 書き終えた羊皮紙をジャラハはガイアスに投げ渡す。

 そこには決して上手くはないキュリオテス語で契約内容が書き示されていた。


「読めん。アドラ、代わりに読め」

「マジですか。魔界語とほとんど変わりませんよ」

「俺に学はない! いいから読め!」


 アドラは恐る恐る羊皮紙を手に取り紙面を確認し、契約内容を大まかに告げた。


『ガイアス・ヴェインをキュリオテス王と認め一族は皆王の傘下に加わる』

『自由意志は認められるが王の下した決定には必ず従うこと』

『王の暴虐が至高神の許容する範疇を超えた場合、反抗の権利が与えられる。ただし王を殺害することは赦されない』

『この契約は王が存命の間まで適用される』


 読み上げるアドラの声にわずかながらも力が籠もる。


 ――これが真実ならば、本当にすごい!


 この羊皮紙で手に入れられるのは国などという曖昧なものではない。

 世界最強の武闘派集団であるウロボロス種の武力だ。

 彼らの力が手に入れば魔王軍すら恐るるに足らず。願ってもない話だ。


「飲みましょうよガイアスさん。これ以上ないほどの好条件ですよ!」

「そうか? 各人の自由意志が認められているならば、俺なら他種族に王の暗殺を依頼するね。俺さえ死ねばそれで契約解消だからな」


 あっ、いわれてみれば確かに……。


「おまけにこっちは死刑等の強い処罰もできない。宗教に詳しくはねえが殺人や拷問は間違いなく神さんの許容の範囲を超えているだろうからな。連中は暗殺依頼したい放題だ。正直やってられんわ」


 アドラは何度も書面を読み返し、そこでようやく契約に穴があることに気付く。

 この人頭がいいのか悪いのかよくわからない。


「契約に不備があるようならいくらでも書き足すが」


 ジャラハはしれっとした顔でいった。

 その表情からは契約の不備が意図的なものかどうかはわからない。


「逆だ。全部消せ。その紙はおれがもらう」


 ガイアスがアドラから神判の羊皮紙をひったくっていった。

 そう、契約するなら内容はこちらが書くのが一番確実だ。相手の思惑が介入する余地を与えない。

 この人、実は頭が悪いフリをしてるだけなんじゃ……。


「それは無理だ。羊皮紙は我らの歴史そのもの。他種族への譲渡は赦されない」

「だったら話は簡単だ。互いの歴史を賭けていっちょ勝負ケンカしようぜ」



                   ※



 ――で、結局こうなるわけね。


 アドラは嘆息しつつも事の成り行きを見守る。


 城外にある兵の訓練所にやってきた戦闘狂の二人は、さっそくウォーミングアップを始めていた。


「俺が負けたら魔術をくれてやる。俺が勝ったらその羊皮紙をもらう。ルールはそれだけだ。何か不満はあるか?」

「いいやまったく。オールオアナッシング。単純シンプル最高ベスト。あんたが話のわかる奴で良かったよ」


 神判の羊皮紙はいったん契約を破棄してアドラが預かることになった。

 結局のところキュリオテス人は闘わなければ物事を決められないのだ。


「どっちかが死んでも恨みっこなしってことで、いいかな――ガイアス」

「無論。俺が死んだら約束が果たせねえけど、そんときゃ勘弁してくれよ」

「これでも手加減は得意なほうだ。そういう事態にゃならねぇさ」

「そうだな。どうせ俺が勝つしな」


 ガイアスは啖呵をきるがこの勝負、アドラは正直不安でいっぱいだった。

 確かにガイアスは強い。相手がヴァイスなら何度闘っても負けはしないだろう。


 だがジャラハは神の名を継ぐキュリオテス第一王子。

 エリが聖王ならば彼は蛇王。

 まず間違いなくエルエリオン最強の一角。

 そんな魔物を相手にガイアスの魔術がはたしてどこまで通用するだろうか。


 アドラはジャラハを注意深く観察するが船上の時同様まるで強さを感じとれない。

 典型的な攻撃の瞬間のみに魔力を解放するタイプだ。

 易々と力量を計らせない相手は本当に恐ろしい。

 自分だったら絶対に闘いたくはない。


「ジャラハさん、魔蛇になってくれて構わんぜ。全力でやったほうが後悔も少ないだろう」


 ガイアスはジャラハをさらに挑発する。

 ヴァイスより強いと予想される彼が魔力を全解放したら、いったいどれほどの化け物が誕生するのか――アドラは気が気でならない。


「おれは弟たちとは戦闘スタイルが違う。そっちこそ魔狼になったらどうだ?」

「あんたがならねぇなら俺もならねぇよ。無駄に被害を増やしたくないしな」

「いいからなれよ。後でアレコレいいわけされたくねぇし」

「ヴァイスの時はあいつに合わせたが本来俺は人間形態こっちのほうが強いのさ」


 ――え? そうなの?


 アドラも初耳の情報だった。


 最初は冗談かと思ったがいわれてみれば確かにその通りかもしれない。

 魔狼形態は確かに魔力は上がるがすこぶる燃費が悪く継戦能力に欠ける。実際ヴァイス戦の後半はガス欠寸前だった。

 ウロボロス種のような魔力お化けと魔力勝負するのは分が悪い。様々な戦況に柔軟に対応できる人間形態のまま戦うのは賢明なチョイスといえるだろう。

 やっぱこの人頭いいわ。認識を改めよう。


「ならば遠慮はいらんか。では行くぞ!」


 ジャラハが地を蹴った。

 小さな拳を大きく振り上げガイアスに狙いをつける。


「おうよ!」


 ガイアスもまた拳を振りかぶり迫り来るジャラハを迎撃する。

 互いの拳がぶつかり合うと、魔力の相克による衝撃波が発生した。

 旋風が巻き起こり、整備されたグラウンドがえぐれ、訓練用の木偶が吹き飛ぶ。


 ――これは……ヤバいぞ!


 そのあまりの凄まじさに危機感を覚えたアドラは、すぐさま一緒に観戦していた部下たちに避難を命ずる。

 訓練場はともかく城までは壊さないで欲しいが、この状況だと絶望的かもしれない。


 一から建て直すカネなんてないけど――まあ、しかたないか。


 少々威厳は損なわれるかもしれないが青空政務というのも悪くない。

 城主としては止めるべきなのだろうが魔術師としての興味のほうが勝った。


 自分が開催するまでもなく始まった最強魔族決定戦。

 特等席で観られると思えば城のひとつやふたつ安いものだろう……たぶん。

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