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四天王アドラの憂鬱~黒き邪竜と優しい死神~  作者: 飼育係
第3章 死神と邪竜 Death and Evil Dragon
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謎の武装船団

 王族専用の大型船に乗り込んでアドラは再び大海原へと舞い戻った。


「できればソロネへもこいつで行きたかったんだけどね」

「さすがにそれは無理デスよぉ。あたしの魔力ゆびがかかりませんデスです」


 今やすっかり相棒となったサーニャと和気藹々と談合する。

 もっとも彼を立ててくれる部下は彼女とロドリゲスぐらいしかいないのだが。

 その中でも、もっとも反抗的なのがシゲンなのだが……。


「……」


 以前会議室でぶん殴られたせいで、サーニャがいる前ではさすがに大人しい。

 今回はもうしわけ程度の数とはいえ船団を率いているので、勝手に命令を出されたら困るので正直助かっている。

 どうやら職場ではイニシアチブを取られずに済みそうだ。


「いちおういっとくけどシゲンくん、戦闘行為は極力避けるからね?」

「なぜだ? 明らかな領海侵犯だぞ」

「警告して戻ってくれるならそれでいいじゃない。何度もいうけど暴力じゃ何事も解決しないよ。君もソロネに連れていけば良かったかな。行けば嫌ってほどそれがわかったのに」

「おまえはその力で王の座を奪い取ってきたんじゃないのか?」


 アドラは苦笑いを浮かべて首を振る。


「確かにおれはソロネで自分の力の異常さを知った。そしてそれがいかに無力かということも。ここエルエリオンには異常な奴らがゴマンといる。一度それを知ったら怖くて無闇に戦えやしないよ」


 ただでさえアンサラーを失い魔力の制御がおぼつかないのだ。戦わずに済ませられるならそれに越したことはないとアドラは思う。


「ところでその不審な船団って何か特徴はなかった?」

「武装はしてそうだが数はそう多くはない。そろそろ肉眼で目視可能だから自分の眼で確かめてみろ」


 碧海に浮かぶ数隻の帆船。武装も旧世代の大砲が確認できる程度。

 これだけ見れば確かに大した驚異には思えない。

 だが船の帆に刻まれた槍持つ天使の紋章を見てアドラは顔面を蒼白にする。


「キ……キュリオテスの武装船団だ……ッ!」


 相手が誰だろうと戦闘行為は避けるつもりだったが、万が一にもぶつかり合えない相手に遭遇してしまった。

 アドラは大慌てで全船団に攻撃禁止の厳命を飛ばす。


「見たところ旧文明のボロ船だがそんなにヤバいのか?」

「激ヤバだよ! 神話で語られているような最上級魔族がゴロゴロいる大国だ! 万が一にも事を構えようものならこんな小島瞬く間に消し飛ぶぞ!」

「だが海域を侵犯して何もせずでは舐められるぞ」

「ルガウは本来キュリオテス領だよ! あの国に法なんてないけれど、仮に法の話をしだしたらおれたちのほうが不法滞在者だって!」


 アドラが懇切丁寧に状況を説明しているにも関わらずシゲンは涼しい顔を崩さない。

 その胆力、かつて魔王軍の師団長を任されていただけのことはあるということか。

 もっとも現状の危機をイマイチ理解していないだけかもしれないが。


「だったらどうするんだ?」

「とりあえず信号を送ってこちらに敵意がないことを教える。それから――」



 ――ドン!



 船が大きくグラついた。


「砲撃か!?」


 慌てたアドラはすぐさま部下に船体の被害状況と原因を確認させる。

 だが報告を待つまでもなく『元凶』はすぐにアドラたちの前に現れた。


「いい武装だ。エルエリオンにはない技術だ」


 鋼鉄製の甲板を大きくへこませたその男は、こちらに話しかけながらゆっくりと近づいてくる。


「だが船自体はおれたちの方が上だな。だからこうして気付かれずに側面に周りこんで強襲できる」


 飛んできたのは砲弾ではなく人だった。

 もっとも砲弾のほうが遙かにマシだったわけだが。


「おっと失礼、自己紹介がまだだった。おれの名はジャラハ。以後よろしく」


 蛇のような三白眼をした小男だった。

 身長はアドラの肩ほどまでしかない。一見するとひ弱そうにすら思える。

 とりわけ強い魔力も感じられないのだが……こんな派手な登場の仕方をされて侮ることなどできるはずもない。

 アドラは警戒して半歩下がるがシゲンは逆に一歩前に出た。


「戦闘行為は極力避ける――とはいえ向こうから攻めてきたのであれば抗戦やむなし。そうだろうアドラ?」

「ダメだ! 戦争になったら勝てない! ギリギリまで説得する!!」


 本当はこんな弱腰を交渉相手の前で見せたくはないのだが、今まさに襲いかからんばかりのシゲンを説得するためにはやむをえない。

 案の定ジャラハと名乗る小男は首をコキコキと鳴らしながら、心底こちら舐めきった横柄な態度でこちらに接してきた。


「白髪の優男くんより黒毛のコウモリくんのほうが話がわかるようだ。無断乗船された挙げ句我が者顔で闊歩されてはメンツも何もあったものではない。即座に排除するのが当然というものだろう」


 アドラは戦闘態勢に入ったサーニャを制止しながらジャラハをじっくりと観察する。


 奇妙な文様こそ入っているが稀少な絹糸を使った上下揃いのスーツ。

 そして何より頬に刻まれたキュリオテスの紋章。


 齢は若そうには見えるが――まさかっ!


「来いよコウモリ野郎。矮小な臆病者でなければな」


 ジャラハの挑発にシゲンはあっさりと乗った。

 漆黒の細剣を抜き、甲板を蹴り、常人には目にもとまらぬ速度でジャラハに襲いかかる。


 だがアドラはそれ以上のはやさで動いた。

 瞬く間にシゲンの横に並ぶと驚く彼の頬を裏拳でぶん殴ってふっ飛ばし海へと叩き落とす。

 そしてアドラ自身も横っ飛びですぐさまその場を離れる。



 アドラが飛ぶと同時に、先ほどまでシゲンのいた場所が大きくえぐれていた。



 攻撃の正体はわかっている。

 ジャラハの腕が一瞬だけ蛇頭と化して攻撃してきたのだ。

 攻撃を終えた蛇はすでに人の腕に戻っている。


 にわかには信じがたい超高速変化。

 あのガイアスですらとうてい不可能な芸当だろう。

 あのまま放置していたらシゲンは為す術もなく喰い殺されていたに違いない。


 おそらくそうであろうとは思っていたが――これで確定だ。

 すぐさまアドラは膝をつき臣下の礼を尽くす。


「知らぬこととはいえ部下の無礼をお許しください。キュリオテス王!」

「あー違う違う。おれは王じゃねえよ。だから礼も要らん」


 アドラが頭を上げるとジャラハは小さな口を大蛇の如く開いて己が身分を明かす。


「ジャラハ・エル・ロードランス。キュリオテス王家の第一王子さ」


 アドラは心底震え上がった。

 王位継承権第一位にして聖王エリと同じくエルの名を継ぐ者。

 間違いなく次期キュリオテス王の大本命だ。


 聖王に枢機卿に蛇の王子――いや蛇王と呼ぶべきか。


 何の因果かこのちっぽけな孤島に大物が続々と集ってきている。

 ルージィの言葉通り、運命の歯車はすでに大きく動き出しているのかもしれない。

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