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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ガチョウと黄金の卵 翻案

作者: いちかわ

俺は、農夫。

ただのしがない田舎の農夫だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

そんななんでもない農夫だが、俺は幸せだった。

いつも通り作物に水をやり……


「おはよう皆。ほら、お水だよ」

「わーい!」

「ありがとう農夫さん! 美味しいよ!」


いつも通りガチョウに餌を与える。

そんな生活が俺は大好きなんだ。

だが突然、そのいつも通りに異物が紛れ込んできた。


「黄金の…タマゴ…?」

「えぇ、いつもお世話してもらっているお礼です。」


俺は衝撃を受けた。

なんて幸運なんだ。

このタマゴを売れば、俺は億万長者…!


「ガチョウ、黄金のタマゴをありがとう」


俺はガチョウに感謝した。

来る日も来る日も、ガチョウは黄金のタマゴを産み続け、俺はそのタマゴを回収するのが新たないつも通りとして俺の生活に加えられた。

黄金のタマゴを売って金持ちになった俺の身は、黄金と宝石に包まれ、自分もタマゴを産むのかと言わんばかりの腹を携えている。

そして、今日も今日とてタマゴを回収する。


「農夫さん、おはようございます」

「うるせぇ! そんなこと言う暇があるならさっさとタマゴを産め!」


俺はそう悪態をついてさっさと市に繰り出す。

タマゴを売るためである。


「あー、金が足りねぇ、金が足りねぇ。あれもこれも全部、あいつらが出ていったからだ」


俺はガチョウの黄金のタマゴのことばかり気にするようになり、他の作物たちの世話を疎かにしていた。

それだけなのに、ある日突然出ていくと言われ、皆いなくなってしまった。


「チッ……売れば少しは金になったものを。逃げやがって」


ジャラジャラと宝石を鳴らしながら、俺は金を稼ぐ方法を思案する。

黄金のタマゴがもっともっとたくさんあれば、俺は更に金持ちになれるはずだ。

儲かる方法…そうしてやがて、一筋の光が差した。


「そうだ! あのガチョウの腹をかっ捌こう!」


黄金のタマゴを産むガチョウの腹の中には、大量の黄金があるに違いない!!

これで俺は金を得られる!

キラキラな宝石だって買える、美味いものだって食える!

幸せな生活が待っているのだ。

思わず笑みがこぼれ、足が弾む。

そうと決まれば話は早い。


「店主、切れ味のいい包丁をおくれ。金はいくらでもある」

「農夫さんかい、それならこの包丁がおすすめさ」

「ではこれをいただこう」

「それにしても、最近いいことでもあったのかい? やけに上機嫌じゃないか」

「分かるか? これから俺は億万長者なって、幸せになるんだ」

「今は幸せじゃないのかい?」

「あぁ、なんせ金が足りねぇからな。これからガチョウの腹を捌いて、大量の黄金を手に入れるのさ」


俺のその言葉を聞くと店主は大きく一息つき、どこか憐れむような目で俺の事を見る。


「農夫さん、包丁はタダで持っていくといい。だけどガチョウのお腹を捌く前によく考えてごらんなさい。今の農夫さんには何も残っていない」

「あぁ!? 何も残ってないだぁ!? ふざけるんじゃねぇぞ!! おら、金は置いてってやるからこいつはもらうぞ!」


俺は金貨の山を叩きつけ、包丁を手に取り走り去った。

本来銀貨数枚程度の包丁、あまりに過剰な支払いである。

だが、なぜかは分からないが、俺はどうしても店主の話を聞きたくなかったのだ。

とにかく、これから。

これから俺は幸せになる。


「へっへ…そうだ、金があれば、あんなやつ…」


俺の中にドス黒い雲が立ち込める。

先程まで太陽の光をキラリと反射していた包丁も、今ではくすんで輝きの一つすら見えない。

光を飲み込んでいた。


「おい、ガチョウ」


俺は包丁を身体の後ろに隠し、ニコニコ顔でにじり寄る。


「どうしたのですか、農夫さん?」

「これから、俺は幸せになろうと思うんだ」

「……そうですか」

「そのために…死んでくれ」


俺は後ろに隠していた包丁でガチョウを突き刺す。

胃袋の中身を出すためにその刃を滑らせると、赤黒い血が飛び散る。

あぁ、これが俺の幸せを祝う祝福のシャワーか。


「あった……! あった、これが、これが黄金の山!!」


ガチョウの胃袋から出てきたのは、ギラギラと輝く黄金の山。

思わず目を覆ってしまいそうなほど、まばゆい黄金の山!


「ひゃほーい! これで、これで俺はやっと幸せになれたんだ!」


俺は興奮した。

この黄金で何をしよう。

自分の身体よりも大きな肉にかぶりついてみようか。

それとも、ダイヤモンドの風呂にでも入ろうか。

黄金で出来た豪邸を作るのも悪くない。

そんなふうにグルグルとその場を回りながら黄金の使い道を考えていると、地面に散らばっているガチョウの臓物につまづく。


「あっ」


俺は頭から黄金に突っ込んだ。

頭蓋が粉々になる音が聞こえ、視界が紅に染まる。


「うっ、あっ…俺の、幸せ……」


俺は忘れていたなにかに足を引きずられ、深い深い、闇に落ちていく。

いや……そういえば、もう堕ちきっていたな。

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