第九十話 放り投げたら
Dさんが小学生の頃の話。
彼は夜に近くの公園にボールを持ち込んでいた。
サッカーの練習である。地域のスポーツ少年団に籍を置いていたDさんだが、なかなか他のメンバーとのレギュラー争いに勝てず、こうして夕食を食べてから特訓していたのだった。
この日は母親が一緒に公園まで来て、Dさんの様子を見ていてくれたのだという。
「よっ、ほっ」
リフティングの練習が始まった。
足先でサッカーボールを転がし、足の甲や膝上で蹴り上げていく。
リフティングは数をこなすことが重要という。Dさんはひたすら数をこなすことでうまくなれると信じていた。
「あっ、くそっ」
だいぶ慣れてきたDさんだが、10回を超えた辺りでボールが横に逸れてしまう。
そのたびに自分で拾いに行くか、来ていた母親が取りに行ってくれていた。
「ああっ、失敗だ」
ボールが茂みの方に転がっていく。
「いいよ、取ってくる」
ベンチに座っていた母親が腰を上げて、取りに行ってくれた。
そして草むらの中から拾い上げて、両手でDさんの方に放り投げた。
「ひいっ」
Dさんが自分でも聞いたことのないような声を上げる。
母親が投げ、Dさんの足元に転がってきたそれは、男の首だった。
ごろごろと転がって、顔面が上に来る。
その目がぎょろっと動き、Dさんと目が合った。
「わあっ、あ、あああ」
腰を抜かしてその場に座り込んだDさん。
「どうしたの?」
母親が駆け寄ってくる。突然Dさんが怯えだしたことに驚いたようだ。
「こ、これ、首、首が」
Dさんが指さすが、それはDさんが持ってきたボールだった。
「え?」
何が起きたのかわからない様子のDさん。
これだけだとDさんの見間違いで済むのだが、一つ不可解なことがあった。
ボールにはべったりと血のような液体が付いていたのである。
その公園で事故や事件があったのかは、Dさんも母親も知らないという。




