第八十三話 惑わす明かり
Wさんという女性からの話。
彼女は深夜に残って会社のオフィスで仕事をしていた。
電気代の節約のために自身の席の上の電灯のみ点けて、他は全て電灯を切っていた。
「うーん、なんでこんな、終わらないんだろう」
ブツブツと独り言を言いながらPCに向かうWさん。
腕時計を見るとすでに時間は23時を過ぎていた。
人気のないオフィスにキーボードを打つ音だけが響く。
同じフロアには他の部署もあり、机の数は50を越えている。
そのフロアの奥の方で、何かが動いたような気がした。
「あれ?」
電気が点いていないために暗闇が広がるが、その中で影が椅子から立ったように見えたのだ。
自分の他にも誰かがまだ残っていたと思ったWさんは、少しだけ親近感が湧いた。
位置的に企画部のデスクがある辺りだ。
仕事も少し行き詰まっていたWさんは、歩いて影が動いた方へ向かっていった。
「でも、なんで電気点けないんだろう」
一瞬考えたが、おそらくPCの画面の明かりだけで仕事をしていて、Wさんの側から見えにくかったのだろうと解釈した。
スリッパの音をパタパタさせながら、企画部の机があるところまで来た。
しかし、誰もいない。
PCが点いているようにも見えない。
「えっ、誰かいたと思ったんだけどな」
そもそもこの周辺もかなり暗い。Wさんの席の照明が明るいとはいえ、その明かりもここまで及ばなくなってきている。
「えーと、電気のスイッチは」
先ほど何が動いたのか気になってしまったWさん。
近くにあった電気のスイッチを点けた。辺りが明るくなる。
「やっぱり、誰もいないか」
Wさんは窓ガラスの方を見た。
無数の目がそこにあり、Wさんの方を見つめていた。
「ひええええっ」
目だけが窓ガラスに浮かんでいる。顔はない。大小様々な目が蠢いていた。
驚きその場に倒れるWさん。
目はぎょろぎょろと左右を見たり、まばたきしたりしている。
Wさんは完全に腰が抜け、這うようにして自分の席へ戻ろうとする。
泣きながら決して窓の方を見ずに自分の席に着いた。
もはや仕事などできる状態ではなかった。
電気もそのままにして急いでオフィスを出た。
「私を呼んでいたのか、なんなのかもさっぱりわかりません」
Wさんは未だにその会社に勤めて同じオフィスにいるそうだが、深夜まで残業することはやめたという。




