第八十一話 私利私欲
女子大生であるHさんの祖母の住んでいた家が、祖母の死去に伴い取り壊されることになった。
最後に思い出を撮影しようと考えたHさんは一人で家を訪れ、中のあちこちを撮影して回ることにした。
祖母のことを思い出しながら、自身も何度か来たことのある家を見て回る。
独特な臭い、ふすまに空いた穴、煙草による畳の焦げ跡などが懐かしい。
電気も水道もまだ止められてはいなかったため、昼でも部屋の明かりを点けたままHさんは家の中を撮影していた。
「あれ……?」
水の音がした。水道から水が流れ落ちているような音だ。
Hさんが気になってそちらに向かってみると、風呂場であった。
水道から水が出ていた。風呂場の栓などしていないため、水は浴槽に溜まることもなくひたすら流れ続けている。
「なんなのよ、いったい」
誰かが蛇口をひねったのだろうか。もちろんHさんではない。
不思議に思っていると、また別の場所から水の音がする。
今度向かった先は台所だった。こちらでも水道から水が出ていた。
勢いがそこそこよいのが腹立たしい。
「誰かのいたずらか、霊現象か……」
Hさんはすぐに霊現象と結びつけた。思い当たるのは祖母の霊である。
「おばあちゃん、おばあちゃんなの?」
若干の気恥ずかしさを覚えつつも、Hさんは台所から霊に向かって呼びかける。
「おばあちゃん、家に来る人がいなくなって、寂しいの?」
ガタガタッ。
食器を入れていた棚が振動した。
これは祖母の霊だとHさんは思った。かわいがっていた孫の自分に返事をしてくれているのだ。
「ねえ、おばあちゃん、家がもうすぐ取り壊されるから、悲しいんだよね?」
ガタガタガタッ。
また棚が震えた。
「家はなくなっちゃうけど、あたしが、ちゃんとお墓参りに行ってあげるからね。だから、いいよね。家のこと、諦めよう?」
ヒュッ。
棚に置かれていた皿が、Hさんの顔面めがけて飛んできた。
すんでの所で身をかわす。
皿が壁に当たり、そのまま床に落ちて割れた。
「あっ、これ、違う」
Hさんは急いで家を出た。割れた皿はそのままだが、身の危険を感じたことが大きい。
そしてHさんはある結論に達していた。
「あれは祖母の霊とかじゃなくて、家に棲み着いていた何かだと思います」
淡々とHさんは言った。
「祖母は私のことかわいがってくれていましたから、そんな、皿を投げることなんてありえません」
家を乗っ取ったつもりであろう何かが、取り壊そうと説得してきたHさんに敵意を持って攻撃してきたのではないか。そうHさんは考える。
結局、何者かの抵抗があったのかは定かではないが、2ヶ月後に家は跡形もなく取り壊された。土地のみがHさんの親族の手によって管理されているが、現在は空き地のままである。




