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第七十七話 こいつが盗んだ

 Wさんは大学時代に居酒屋でバイトをしていた。その時の話である。

 学生でありながらも2年勤務し、他のバイトをまとめるリーダーの役割も担ってきたWさん。

 店の閉店時間に売上金を金庫に移動するという仕事を任されるようになった。

 他の店はどうか知らないがと前置きして、方法を教えてくれた。


「現金の出納のデータがPCに記録されていますが、実際にレジに入っていたお金と金額を照合して、それをATMに持っていきます」

 レジと出納帳の金額の違い、つまり違算が出ないように毎回祈るような気持ちでレジを締めていたという。

 卒業を控えて単位は全て取り終え、バイト三昧のまま大学生活を終えようとしていたWさん。必然的にシフトに入る日も多くなっていた。


「私がシフトに入っている曜日は水曜と木曜以外なのですが、毎週の土曜日だけ違算が出るようになったのです」


 それが決まって、3万円なのだそうだ。しかもレジの金額が足りない方向に違算が出ている。

 店長も3万円足りない事態が4回続いた時点で怒りだし、Wさんもきつめに問い詰められた。


「しかし、土曜日だけ足りなくなるというのはまた不思議で、他の曜日は違算が出ても数百円ほど。レジの方が多かったりする日もあるぐらいです」


 Wさん以外にもシフトに入っているメンバーはいるが、土曜日に毎回固定されている人はいなかった。違算が出た4回全てで出勤していたのはWさんだったため、疑いが濃くなったのである。

 そうなるとWさんは黙っているわけには行かなかった。一生懸命やっているのに評価が下がるのではさすがに困る。何が起きたのか確かめなければならない。


「そうだ、カメラがあるよ。あれならわかる」


 Wさんは気づいた。レジカウンターを斜め上から映している監視カメラがある。土曜日のレジ周辺の動きを確認することにした。店員やお客さんの手元も映るし、お金がしまわれたところも記録されているはずだ。


「店長に頼み、シフトが休みの日に数時間かけて土曜日の監視カメラの映像を確認しました。バイト仲間に1人同席してもらい、私による改ざんやごまかしがないことも担保してもらいました」


 どこで異常が起きたのかわからないため、ずっと映像を見続けるのはなかなかに苦痛だった。

 しかしある時点でWさんは驚くことになる。

 時間は23時前、客の流れが途切れたタイミングでそれは現れた。

 黒い影。

 男か女なのかも判別できない。

 黒いもやのようなもので全身を包んだ影が、レジのところに現れたのだ。

 しばらくレジ全体を影が覆い尽くし、その後に影は霧消する。

 他の土曜日の映像を見返してみる。

 時間こそ統一性はないが、同じようにもやのような黒い影がレジのところに現れる事象が記録されていた。


「もしかしたら、この影が売上金をちょろまかしているのではないかと思いました」


 ちょろまかすという表現が適切かはわからないが、ともかくこの影が関係している可能性はありそうだった。一緒に映像を確認したバイト仲間の顔を見ると、確信を持ったように頷きを返した。


 店長にその映像を見せたところ、なぜか気まずそうに店長はWさんのシフトを変えた。理由は教えてもらえなかったが、一連の件について店長からの謝罪がなかったことに気分を害してWさんはバイトをやめた。

 現在、大学を卒業して一般企業に就職したWさんは思い出したことがあるという。


「私が勤務する前、この店では店長との折り合いが悪く、売上金を盗んで逃げるようにやめていったバイトがいたと聞いたことがあります」


 まさかその人の幽霊、あるいは生き霊が、今でもなお店に恨みを持って売上金を盗みに来ているとでもいうのだろうか。真相は謎のままである。

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