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第七十三話 他にもいますか

 男性のYさんは社会人の投資サークルに入っている。

 毎晩のようにネット会議のアプリを使い、投資仲間と会議や雑談をしていた。

 このときはYさんとT子さんという女性だけが参加しており、2人で話をすることになった。


「T子さんは若くてサークルに入ったばかりの女性でした。顔も映していて、結構かわいかったですよ」


 Yさんは上機嫌で推奨する銘柄や自分の失敗談などを話して聞かせていた。

 小気味よく相づちを打ち、笑ってほしいところで笑ってくれるTさん。Yさんも話しやすく感じていて楽しい時間だったという。

 しかしYさんはあることに気づいた。

 T子さんが映っている画面に、ときおり手が入り込むのである。

 肘から先の部分。ちょうど画面外から侵入してきているように見える。

 手はT子さんの頭や顔を撫で回すように動いている。

 T子さんは気にした様子がなく、おそらく彼女の旦那や恋人がふざけて割り込んできているのだろうとYさんは思った。

 最初は気にしないようにしていたYさんだったが、その手がT子さんの胸元を触りだしたときにはさすがに我慢ならなくなった。


「ねえTさん、その手は誰か、他にもいますか?」


 ところがT子さんはきょとんとした顔をしている。


「手って、何のことでしょうか……私一人だけですよ」


 T子さんが否定したことで、Yさんは何か得体の知れない気持ち悪さを感じた。


「そ、そうなんだ。すみません、見間違えたかな」


 見間違いなどでは決してない。

 Yさんがまさに喋っている間にも、画面の中の手はT子さんの首を絞めようとしているのだから。

 映っている片方の手がT子さんの首もとで止まり、細かく震えながら開いていた手を閉じていく。


「うっ……」


 T子さんが短くうめき声を出す。


「ごめんなさい、ちょっと、頭が痛く、なってきて」


 途切れ途切れの声をTさんが絞り出す。Yさんが最後まで聞く前に、画面が真っ暗になった。


「あれ、T子さん、T子さん?」


 通信が切られたようだ。Yさんは彼女の個人的な連絡先は知らない。

 アプリを通じてメッセージを送ってみたが、返事は得られなかった。

 翌日、Yさんは彼女の名前が投資サークルから消えていることに気づいた。


「何が起きて、なぜT子さんがいなくなったのかはわかりません」


 Yさんが不思議に思うのは、サークル退会自体は誰か人の手を使って行われていたということである。

 それがT子さんによるものなのか、あるいは人知を越えた何かの差し金なのか、全ては闇の中だった。

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