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第七十一話 疲れすぎた私

 Nさんが帰宅途中の夜のこと。

 勤める工場が山の方にあるため、いつも明かりの乏しい道路をそこそこスピードを出して帰っている。

 なだらかな下り坂。


「今日は、疲れたぞ」


 この日は残業を6時間もして、工場の戸締まりまでも担当せねばならなかった。

 体よりも頭が疲弊していた。

 日付が変わる寸前であるため、民家の明かりなどほぼない。

 とにかく車線から外れないように最低限のハンドルの動きだけ行い、道中も車が走るのに任せる。

 若干速度を出しすぎかとも思ったが、ボーッとしている頭で制御できない。

 カーブをほとんど減速せずに曲がる。

 車の目の前に女の姿があった。


「わああああっ!」


 ブレーキをかけても全く間に合わない。

 ドンッ!

 何かに当たる感触。Nさんは車を停め念のため見に行くが、特に人を轢いたような形跡はなかった。

 フロントバンパーやボンネットに異常がないかを確認しても、何もない。


「もしかして、幽霊だったのか? 事故を起こさなくてよかったなあ」


 かすかに笑みを浮かべて車に戻り、運転を続ける。


「ん?」


 バックミラーに何かが映り始めたことに気づいた。

 トランクから後ろのガラスに向かって、髪を振り乱した女がせり上がってくる。

 しかし先ほど、轢いたと思われたのは幽霊だと確信したため、Nさんは気にせずに運転を続けた。

 疲れていた。早く帰って、眠りたかった。

 何かを叩くようなバンバンという音が耳障りだった。

 そしてNさんは何事もなく山を下り、事故も起こさずに家まで着いたという。

 車の後ろに手形が付いていたような気もしたが、次の日の天気予報は雨だったのを思いだしT。外に車を置いておけば汚れも流れるだろうと思った。


「今はその会社をやめて、家から近いスーパーで品出しをしています」


 Nさんの顔からは明るさが感じられた。

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