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第六十話 とらえたはずの棒

 Oさんは数人の友達とともに山の方にある公園へとやってきた。

 目的はバーベキュー施設の下見だったのだが、それが済んでせっかくなので広い公園を見て回ろうと考えたのだった。

 公園内には木でできたアスレチック広場があった。丸太を組み合わせ、縄や吊り橋などが備わった大きな遊具が設置されている。


「なあ、俺こういうの得意なんだ。やってくるわ」


 友人の1人であるFさんが皆に宣言して、早速アスレチックに挑み始めた。

 高低差のある丸太が地面に立てられており、それをひょいひょいと片足ずつ乗せて移動していく。

 面白そうに感じたOさんは携帯のカメラでそれを動画撮影することにした。

 綱の上を器用に動いてエリアを移動していくFさん。

 もともと子ども用に作られているので、Fさんぐらいの大人であれば容易に全部クリアできると思われた。


「ほらほら、しっかり俺の勇姿を撮れよ」


 自信たっぷりのFさん。Oさんは横の地面を撮影しながら併走する。


「失敗したらネットにアップするぞ」


 雲梯うんていにさしかかる。横になったはしごを掴みながら移動する遊具だ。


「ほい、ほい、ほい」


 片手ずつ雲梯を掴んでスピーディーに前へ移動していく。

 突然、落ちた。

 ズドドッ。

 カメラ越しに見ていたOさんには一瞬現実感が乏しかったが、レンズ越しにその場で苦しんでいるFさんを見て、ことの重大さがわかった。

 Oさんが運転する車で病院へ向かったFさん。彼は肩を脱臼していた。


「しかしあれだけ自信たっぷりだったのに、意外と下手くそだったな」


 病院から帰る車の中でOさんは言う。


「いや、あれは……」


 口ごもるFさん。不思議に思ったOさんは追求する。


「その、何かが俺の手を掴んだ気がしたんだよ。だから雲梯を持ち損なって」


 Oさんは家に帰り、撮影していた映像を1人で見返した。

 Fさんが雲梯から落ちるその瞬間のものだ。


「これ、ええっ?」


 Fさんの話しぶりから、何か手のようなものが彼を妨害したのだろうとOさんは考えていた。

 しかし映像に現れたのは別のものだった。

 黒い何者かの頭だった。

 異様に黒い頭部。髪の毛だけではない。頭部が全て真っ黒なのである。

 いや、正確性を欠いた。二箇所だけ黒くないところがあった。

 目が真っ赤だった。

 そして、口元から覗く歯が驚くほど白い。

 人間の頭部と言い表していいのかもわからない。

 とにかくその「もの」が、雲梯の次の棒を掴もうとするFさんの手に噛みついたのだ。

 Fさんは痛みを感じたのかそのまま手を引っ込め、落下した。


「Fには映像のことは話していません」


 Oさんは映像を見返すと今でも震えが来るという。


「しかしFがあのとき口ごもっていたのは、出てきたものについて何か知っているのかもしれないと、そう思うのです」


 Fさんは肩も治り、今も元気に暮らしているという。

 ただ、Oさんはこれ以上この件について触れることはしないという。その表情からは、出てきたものの存在を記憶から消したがっているのが見て取れた。

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