第五十六話 誰か死んだのか
Nさんが車での一人旅をしていたときのこと。
県をいくつも超えていくため、高速道路を使って移動していた。
「だいぶ長時間運転してきて、トイレ休憩のために高速道路の途中のサービスエリアに立ち寄ったんです」
すでに夜になっていた。
わずかな明かりを頼りに車を駐車場に止めようとしたNさん。
「うわっ」
突然車の前に、半透明の女らしき人影が現れた。
横からぬっと出てきたため、Nさんは慌ててブレーキを踏む。
間に合わないタイミングだったが、不思議と衝撃はなかった。
「あれ……なんでだろ、当たったと思ったけど」
すぐに駐車場に停め自分の車に何か痕跡がないかを見るが、何も見当たらない。
人影が現れたと思しき場所も確認したが、そこにも倒れている人もいなかったのである。
不思議に思うNさん。しかし尿意も催してきたためにまずはサービスエリア内のトイレでそちらを済ませることにした。
「えっ……」
トイレから出てきたNさんはまたも驚く。
店などの施設の横にある植え込みの中に、複数の影が立っているのである。
夜とはいえ、光が当たってもぼんやりとした姿しかわからず、ただただ黒いものが立っているようにしか見えない。
それも、なぜ植え込みの中に立っているのかわからなかった。
影たちは口元に手らしきものを当てているようにも見えた。それが、ひそひそ話をしているようにもNさんには思えたという。
「ちょっと近づいたら、フッとかき消えました」
Nさんは説明の付かないものを見た恐怖もあり、先ほどの駐車場の件も合わせてあまり長居すべきではないと判断。
サービスエリアを出て目的地へと急いだ。
「過去に誰かが死ぬような事故があったのだと思います。ですが、何というサービスエリアだったか思い出せないんです」
サービスエリアを示す道路案内も、施設の上の看板も見ずに来たNさん。
それでも気になったために、行きのルートで横を通ったであろうサービスエリアについて全て調べた。
「1箇所、それっぽい事故があった記事を見つけました」
関東地方の某県にあるサービスエリアでは、外に設けられた喫煙所に車が突っ込むという事故が起きていた。
客の1人が重傷、3人が怪我で病院に運ばれたという新聞記事を見つけたそうだ。
「あれは、煙草を吸っている動きだったのではないかと思うのです」
Nさんは言った。
しかし、それでも駐車場で飛び出してきたものの存在については、いっさい説明が付かない。Nさんは未だに割り切れない思いがあるという。




