第五十四話 できるまでやろう
これまで2日に1話のペースで公開してきたのですが、次回より1日1話の公開ペースとなります。公開時間は21時で変わりありません。
よろしくお願いいたします。
Yさんは休みの日に、小学校低学年の娘が自転車の練習をするのに付き合っていた。
これまで付けていた補助輪を外し、いよいよ二輪で安定して乗れるようになるかというところだったという。
自宅の前から乗って、近所の公園まで行くというルートだ。
「パパー、乗ってるよ」
「ああ、パパのほうじゃなくて前を向いて運転するんだよ」
思っていたよりも娘が頑張って運転していく。
Yさんは周囲の車に気を配りながらも娘に離されないように追いかけていた。
自転車を操っている感覚なのか、娘は嬉しそうに笑みを浮かべる。
ときおり左右に振れながらも、なんとか道路を進んでいった。
「そうそう、上手だね、気をつけてね」
やがて公園に着いた。
公園の中に入ってしまえば車の心配はない。Yさんはホッとした。
ちょうど他の人もおらず、公園内でしばらく自由に自転車を乗り回せそうだった。
Yさんはその様子を撮影して、妻に見せようと思った。
スマホを取り出して動画撮影モードにして娘にカメラを向けた。
しかし数秒撮影しただけで、娘が自転車を降りてしまった。
「あれ、もうやめる?」
「うん」
娘が疲れてしまったのかと思った。ただ、それにしてはやけに怪訝な顔をしている。
「何かあった? できるまでやろうよ」
娘に尋ねるYさん。
「うーん、なんか、いやだった」
どうも要領を得ない。娘が自転車を引きながら2人で家に帰った。
そういえばちょっとだけ動画を撮ったんだったと思い出したYさんは、スマホを確認した。
動画が始まって早々にYさんは驚く。
娘の自転車が進んでいく方向に、半透明の壁があった。自転車に乗った娘の倍ぐらいの高さである。
自転車が進むのに合わせるように壁自体も距離を保ちつつ移動している。
それゆえに、消えない。娘にはぶつからなかったが、常に自転車の行く手を遮るように壁が出現し続けていた。
「娘がいやだったと言ったわけがなんとなくわかりました」
Yさんは壁について娘に尋ねてみたが、すでに忘れてしまったのか、話を聞くことができなかった。
「娘が自転車を降りたところで終わってしまいましたが、撮影をもっと続けておけばよかったと思います」
残念そうにYさんは言うが、最後にこう付け足した。
「でも、あの壁が初心者の娘が無茶な運転をしないように、守っていてくれたのかもしれないですね」




