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第五十一話 私の消えた友達

 Aさんの子どもの頃の記憶として、鮮烈に覚えていることが1つある。

 怖い体験として頭に残っているのだという。

 小学2年生の頃に、同級生のN島くんからこういった話を聞いた。

 学校の近くに団地がある。

 その屋上は普段ドアに鍵がかかっているが、背の高い男の人が子どもをさらってそこに連れて行く。

 そして屋上から突き落とすのだ。

 幼いAさんの頭の中には、コート姿で帽子を被った背の高い男が、自分の手を引いて屋上へ上っていく様子が浮かんでいた。

 同い年だというのに怖い話を喋ってくるN島くん。

 Aさんは夜に眠れなくなるのではないかと内心怯えた。


「ああ、俺この前見たんだけど、同じ学校の生徒がこの前連れて行かれたんだよ」


「ええっ?」


「それで、男と手を繋いで屋上の方に行って、そのまま消えちゃったらしい」


 戦慄するAさん。


「絶対に親とかに言っちゃダメだからな」


 N島くんが釘を刺し、Aさんはこくりと頷いた。

 その日の晩、N島くんからは親に話すなと言われていたにもかかわらず、怖さに耐えきれなくなったAさんは母親に怖い話のことを喋ってしまった。


「それでね、男の子が連れて行かれて、消えちゃったんだって」


 Aさんは真剣に話したが、母親は信じていないようだった。


「子どもの事件があると保護者会に話が来るものなんだけど、何も来てないよ。だから安心しな」


 母親がそう言ったことで幾分かAさんも気が楽になった。

 その後時が流れ、Aさんは親元を離れて大学に通っていた。

 長期の休みで実家に帰省したある日、ふとN島くんの怖い話のことを思い出した。

 雑談として母親に話しかけてみる。


「そういえば、あたし子どもの時にN島くんから聞いた変な話したよね。団地の屋上に子どもが連れ去られるって」


「うん。まだ見つかってないんだってね」


「えっ?」


「N島くん、もう14年? 15年? 親御さんもだいぶ疲れておられてねえ」


 Aさんは母親が何を言っているのかわからなかった。


「あの、えっ? N島くんからあたしが聞いた怖い話は、嘘なんでしょ? 作り話だってお母さん言ったじゃん」


「そうだっけ? たしか回覧板が回ってきてね。近所のN島くん行方不明になってたのよ。あんたが言ってたのはそのことじゃないのかい?」


 母親からさらに話を聞いて、Aさんは驚いた。

 同級生にN島くんという男子はいたが、彼は1年生の時に下校途中で行方不明になっていたのである。

 Aさんの記憶では、N島くんから怖い話を聞いたのは小学2年生の時である。

 時間がずれていることも不思議だが、そもそもAさんにはなぜN島くんから話を聞いたような記憶があるのだろうか。

 N島くんは、未だに見つかっていない。

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