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第五話 おなじみの廃墟

 廃墟マニアを自称するSさん。N県の山の方にある有名な心霊スポットを訪れていたときのことだ。


 かつてホテルだったその建物は、地元どころか県外にも知られる心霊スポットとなっていた。心霊スポット好きからすると、名前を出されると「またか」と思われるぐらいのお馴染みの廃墟である。


 Sさんがここを訪れるのは初めてだった。廃墟マニアとしては通過儀礼的に押さえておきたい場所だと手前勝手に考えていたという。

 廃業後に取り壊されるでもなく月日だけが経過している。


 中に入ってみると、床はところどころが剥がれ、ドアも開きっぱなしでノブが取れている。ガラスが割れて吹きさらしの状態であり、出入りした若者が描いたのか意味不明な落書きが壁に散見された。


「もっとも、この程度ならば他の廃墟でも見てきたんですよ」


 昼間に訪れたということもあり、Sさんは余裕の表情で廃ホテル内を探索することにした。

 声を発しないので無言の中、Sさんが床を踏みしめる音だけが響く。がっ、がっ、がっ。


 壁がタイル張りになっている部屋に辿り着いた。トイレである。

 全ての個室のドアが外れている。

 すでに風化しかかっているのか、独特の臭いはなかった。しかしながら熱心に見て面白いとも思わなかった。


 さっさと次へ移る。宴会場だったと思しき広い部屋に出た。壁一面に侵入者が書いたと思しきアートに出迎えられる。

 そこでSさんは転びかけた。


「っぶねー、マジか」


 床にはがれきが散乱していた。天井が崩落してその残骸が落ちていたのであろう。

 天井を見上げる。あるはずの天井がそこになく、2つ上の階まで見えるほどに壊れている。


「あー、長くいるべき場所じゃないな」


 朽ち果てた天井があるという事実が、Sさんに身の危険を感じさせた。他の天井も落ちてくるかもしれない。確率は低いが可能性がある以上、長居は禁物だと考えた。

 Sさんは出口に向かって歩き出す。がれきを越えていかねばならない。足元に注意しながら早足で歩いた。


「うぐっ」


 突然首に痛みを感じた。


「ぐはっ、く、はっ」


 呼吸が苦しい。どこから攻められたのかわからない。

 首に巻き付いている何かにようやくSさんの手が届いた。

 崩落した天井から降りてきている配線だった。それが首に巻き付いたのだ。配線は床を這わせていたのだろう。それは理解できる。

 だがSさんは、底冷えのするような恐ろしさを感じていた。

 配線の先が首吊りのロープのように丸く、首が通るような形に結ばれていたのである。

 ちょうど成人男性がそこを通れば、首に巻き付くように仕掛けられているように思われた。床のがれきに注意して、下を見ているとまず気づかない。


 何者かの悪意を感じた。Sさんの背筋が泡立つ。


「霊がやったのか、人がやったのかはわかりません。ただ、誰かが悪意を持って首を吊らせようとしているように思えて怖くなりました」


 この日以降、Sさんが廃墟に行く頻度も減ったという。

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