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第四十九話 煽り運転の果てに

 Bさんが助手席に妻を乗せて山道を車で運転しているときに、後ろから煽られたという。

 日中に森林浴をして、その帰宅途中のことだった。

 相手の車は車間距離を必要以上に詰め、パッシングライトを連発してくる。

 Bさんがまこうとして急に曲がっても、すぐ後ろを着いてきて引き離すことができない。

 路肩に停車したら相手の車も停まる。割と大きめのセダンだ。

 どうも乗っているのは中年男性のようだった。眼鏡をかけ、髪が薄い。


「ねえ、あれやばいよ」


 妻が怯えたような声を出す。Bさん自身も少し恐怖を感じ始めた。


「うーん、もう少し行くと確か車を停められるスペースがあったと思う。そこであいつも停まったら文句言ってやろう」


 わずかな記憶を頼りにそこへ急ぐことにする。

 後ろの車は離れずに着いてくる。

 薄暮の時間帯で明かりも乏しい山道。煽られながらそこそこのスピードが出ているため、見つけたらすぐに入る必要があった。

 そして前方左側に駐車スペースが見えた。


「よし、あそこに入ろう」


 慌てて左折する。後ろの車の動きをちらりと見ると、向こうも追随して駐車スペースに入ってきた。


「来たな、停まったら俺は降りて話してくるから、警察に通報する準備だけはしといてくれ」


「う、うん、わかった」


 妻に伝えてBさんはシートベルトを外し、降りる準備をする。

 相手の車は白線のラインの中に入らず、入口付近でそのまま停まっている。


「なんで、あんなところで……俺が向かっていったら逃げるつもりか」


 相手が入ってこないのは自分を驚異に感じているからだと解釈した。俄然強気になったBさんは相手の車に歩み寄る。


「あ?」


 運転席には誰の姿もなかった。

 ここに来るまでに相手の運転席をバックミラー越しに見ていた。そこには中年の男性の姿が映っていたはずだった。

 それが今は跡形もない。Bさんが車を停めている間に、自分は車を置いてどこかに逃げたのだろうか。

 Bさんはふと気がついた。

 後部座席に何かある。ブルーシートにくるまれている何かが。

 ちょうど後部座席に寝ている人をシートでくるむと、このようになるだろうという大きさだ。

 嫌な予感がしながらも、Bさんは車の後部座席のドアに手をかけた。

 そして引く。

 開いた。

 鍵がかかっていなかったのだ。

 ドアが開き、むっとするような臭いがBさんの鼻を襲う。

 それでも気になる気持ちは抑えられなかった。

 Bさんはブルーシートに手をかけ、引っ張った。


「わあっ!」


 中から出てきたのは、焼け焦げた人間の遺体だった。

 全身が黒く焦げ、肉がほとんど残っていない。骨が崩れていないために人間の形を保っていた。

 Bさんが見られたのはそこまでだった。

 脱兎のごとくドアをそのままにして自分の車に逃げ戻る。


「どうしたの、あの人はいなかったの」


 妻は慌てた様子のBさんに問いかけるが、Bさんは答えずに車を出発させた。

 あまりにわけがわからなかったため、Bさんは警察にも通報しなかった。

 その後も、山道で車から遺体が見つかったというニュースは聴かれなかったという。

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