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第四十六話 古びた親戚の家

 Gさんは中学生の頃の夏休みに親戚の家に泊まりに行った。

 パワーの有り余っている年代で、同年代の従兄とともに夜になって外で花火をしたあとで近くの公民館まで走ったり、同じく近くの神社の中を一周したりとやりたい放題だった。

 それでもいつもと違う環境で少し疲れを覚えたGさんはこう切り出した。


「あー、俺喉渇いたし、家でジュース飲むから戻るわ」


「おう、道わかるか?」


「多分大丈夫だと思う」


 Gさんは従兄といったん別れ、一人で夜道をてくてくと歩き出した。

 昼間に歩いたからだいたい家までの道は頭に入っていると思ったが、Gさんはいきなり迷ってしまった。

 周りの景色が田んぼばかりになり、どこかで曲がる道を間違えたようだった。

 そもそも明かりが少ない。数本立っている街灯がその足元を照らしているだけだ。

 虫と蛙の鳴き声しかしない。車も通らない静かな夜だ。


「あれ、こっちだと思ったんだけどな」


 歩いても歩いても、見覚えのある景色にたどり着けない。

 スマホなどなかった当時、自分の勘と記憶だけが頼りだった。

 引き返すにしても、どこかで一本曲がり角を曲がっているがそれがどこかわからない。

 さらに道を間違えて方向すらも誤ったら、それこそ迷子だ。

 後ろから従兄が自分を呼ぶ声など聞こえてこないだろうか、そんな淡い期待も実らない。

 30分ほど歩いた。

 ついに親戚の家らしき影が見えた。

 歩いた距離からすると家に辿り着くのが不自然にも思ったが、どこかで元の道に戻れたのだろうとGさんは解釈した。


「やった、よかった。疲れたよ」


 疲れてはいたが安堵感が勝る。一歩一歩踏みしめて家へと近づいていく。

 だが、違和感があった。

 家が古びた気がしたのである。

 昼間はこの家で遊んでいたのだが、そこまで古いとは感じなかった。今見るとまるで空き家だ。

 隣の家との境界線の塀がところどころ崩れており、エアコンの室外機の周りにゴミが散乱している。

 用途がわからない板が地面に突き立ち、トタンの残骸には補修用なのかガムテープが貼られていた。


「こんなの、あったか?」


 昼間は目に入らなかったのだろうか。Gさんは不可解な思いを拭えない。

 何よりも、家の電気が全く点いていない。

 今が何時なのかわからないが、親戚はもう寝たのだろうか。従兄は帰ってきただろうか。

 わからないことだらけだ。

 玄関まで来てGさんは引き戸に手をかける。

 持ち手の部分がほこりにまみれていた。

 毎日親戚達が出入りしている戸のはずだ。普通こんな状態にはならない。

 手をかけていた引き戸を横に動かす。鍵がかかっておらず、少し開いた。

 そのとき背後でガサッという音がした。


「えっ?」


 Gさんは慌てて振り向く。

 白装束の髪の長い女が立っていた。

 そこで急にGさんの意識が遠のいた。


 目を覚ますと親戚の家だった。

 仏間に布団が敷かれ、Gさんはそこに寝かされていたのだ。

 時計が目に入る。6時だった。周囲の明るさからすると朝の6時か。

 すでに起きていたらしい叔母さんが心配そうに話しかけてくる。


「あの、俺、昨日迷っちゃって、家の前までは来たんですけど」


 Gさんがそう言っても、叔母さんは不思議そうな顔をする。

「何言うとんね、あんた昨日、花火の最中に具合悪くなって、うちのお父さんにおんぶされて連れてこられたんよ」


 どうも叔父さんが自分を家まで運んでくれたようだった。

 しかしGさんにはそんな記憶はない。

 花火も最後まで楽しみ、その後も従兄と遊んでいたはずだ。

 つじつまが合わない。

 そう思っていると従兄が仏間に顔を出した。


「おう、G、大丈夫かぁ」


 Gさんが目を覚まして安心しているようだった。

 その従兄にもGさんは昨夜のことを尋ねたが、叔母さんと同じような話をされた。

 外に出てみると、特に家は古くなっていないしゴミも落ちていない。

 玄関の引き戸も綺麗なものだ。

 では自分が見た、古びた家と白装束の女はいったい何だったのか?

 そもそも自分は昨日、親戚の家までたどり着けたのか?

 Gさんはそれが未だにわからないという。

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