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第四十五話 梅の木の下

 3月の頭にMさんは近所の公園に妻と娘と共にやってきた。

 目的は写真撮影。ちょうど梅の花が咲く頃でありSNSへの投稿や家族の思い出としていいなと思い、いささか渋い趣味でもあるが家族にも付き合ってもらったのだった。

 まだまだ肌寒い季節でありコートやジャケットで防寒はするが、妻からは寒い寒いと文句が出る。

 一方娘は元気で、先へ先へと公園内をスタスタと歩き回っている。ときおり走り出すので親の側が心配で追いかけているぐらいだった。

 日差しはあり、風はさほど強くないのが幸いした。Mさんは撮影のポイントを見つけようと公園内をうろつくが、妻の方はあっさりとベンチに腰掛けて休み始めた。

 Mさんはあることに気づいて妻に話しかけた。


「なんか今日のこの公園、じいさんばあさんが多くないか?」


 妻は意外でも何でもなさそうな顔で答えた。


「だって、梅が見頃だとかニュースで言ってたし、それでみんな来てるんじゃないの?」


 なるほどとMさんは思った。この公園に梅の木があることを知っていれば、確かにこの時期に来る人はいそうだ。

 納得しかけたMさんだったが、しばし老人たちの様子を見ているとどうも腑に落ちない。

 老人達が見ているのは、梅の花ではない。

 地面だった。

 およそ10人はいようかという老人達が、みな梅の木の下の地面に目を向けているのである。


「スミエさんが……」


「あの孫が性悪でのお」


 老人達のよくわからない話が断片的に聞こえてくる。


「もう10年になるかねえ」


「こっちの木だったじゃろか……」


「ほれ、あそこの立て札のとこじゃわ」


 ボソボソと老人達が喋っている。

 何かを探しているのだろうか。

 不思議とMさんは目を離すことができない。


「あの人に、聞いてみましょかいねぇ」


 老人達が一斉にこちらを見た。

 Mさんは背筋が凍り付いた。

 異様に黒目が小さい。目のほとんどが白目で、黒目が鉛筆を一度押し当てた点ほどの大きさしかない。

 スミエなんて人も知らない。

 胸に圧迫を感じ、思わず手で押さえる。

 禿頭である男の老人が1人ゆっくりとこちらに迫ってくる。


「なあ、あんた」


 ほとんど目がない老人と目が合う。

 そして首がぐるりと回り、顔の天地が反転した。

 Mさんの意識が飛びかける。


「パパ、どうしたの?」


 娘の声で我に返った。


「えっ……」


 見ると老人達は梅の花を見ていたり、数人ずつで雑談したりと、そこには昼間の公園らしい光景が広がっていた。黒目の大きさも普通だ。

 禿頭の老人は姿を消していた。


「あれは何だったのでしょうか。幻覚を見たのでしょうか」


 Mさんは娘の手を引き妻と共に急いで公園を離れたが、自分の体験を話すのはやめておいたという。

 その後、この公園の地面から何か見つかったという話は聞いていないそうだ。

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