第三十九話 枯山水
Mさんの話である。
大学時代の友人達と某県へ旅行に行った際に、ある城を訪れていた。
ただ、中を見て回る時間がなかったために通り抜ける格好で敷地内を南から北へと歩いて行くだけしかできなかった。
「おっ、日本庭園だ」
友人の一人が言う。小さな門を抜けるとそこには言われたとおりの日本庭園が広がっていた。
水はなく石と砂が敷き詰められている庭園。
いわゆる枯山水だ。
枯山水を囲むように道状に敷かれた板で通路が作られている。
当然ながら訪れる観光客はその板の上を通ることになる。立て札があり、「道の上を歩いてください」と書かれていた。
「日本語だけで書かれていて、ふりがなもないから海外の観光客にはわからないだろうなと思いました」
Mさんが思い返してこう語る。そしてその懸念はほぼ現実となった。
友人達はMさんを含めて6人。先頭がMさんだった。
とにかく流れを止めまいと先を急ぐが、ふと後ろの方を向くと友人達以外に誰かがいる。
子どもである。白っぽい服を着ている。まだ2歳か3歳と思われ、足取りがおぼつかない。
周囲に親の姿がないことからにわかにMさんは心配になったが、普通に考えて観光地で子どもを置いていくとも思えない。
あとから親が追いかけてくるか、親だけ先に行っているのだろうとMさんは思った。そして自らも先を急ごうとする。
ジャリ、ジャリッ。
Mさんは嫌な予感がした。石や砂を踏みしめる音がする。
少しだけ首を曲げ、後ろを確認する。
先ほどの白い服を着た子どもが、枯山水の中に入り込んでいた。
一歩や二歩ではなく、すっかり庭園の中まで入ってしまったように見える。
やっちゃったかと思いつつも、トラブルに巻き込まれるのを避けてMさんはもう振り向かずに城の敷地を通り抜けた。
その日の夜に飲み会となり、Mさんは庭園で見たことを話題に出した。
「あの枯山水、子どもが入り込んでたね。まあ子どもは立て札の漢字も読めないから、対策もできないか」
なぜかそれを聞いても友人達はピンときていない様子だ。
「ほ、ほら、子どもが枯山水の中に入って、砂の模様もぐちゃぐちゃにしてたじゃないか」
「いや、誰も入ってなかったし、綺麗なものだったよ」
Mさんのすぐ後ろを歩いていた友人が言う。
さらに最後尾を歩いていた友人も口を開く。
「うん、俺が一番最後だったからじっくり庭を見てたんだけど、俺たちしかいなかったよ。子どもなんて入ってなかった」
Mさんは自分が何を見たのか、未だにわからないという。




