第三十五話 穴を開ける男
Cさんはネットの掲示板を見ていて気になる光景に遭遇したという。
ある投稿者が自分の家の中を撮影し、その写真をアップしていたのだ。
自らを経済的弱者と称しており、仕事をしても生活が楽にならないことを嘆いていた。
見ている人や書き込む人も同じような境遇なのか、励ましや同情のコメントが相次いでいる。
アップされた写真についてもコメントがあった。
「靴が大きいな」「掃除しろ」「片付けられない男」といった冗談交じりのコメントだ。
Cさんも何かコメントしようかと思い、写真を眺めた。すると気になるところを見つけた。
玄関脇の壁に、穴が空いているのである。
綺麗に道具を使って開けたようには見えない。何か強烈な衝撃で壁が壊れたときにできた穴に思われた。
アップされた写真の家は、郵便受けの様子などからおそらく賃貸だろう。そうなると穴をわざわざ開けるにはよほどのことがないと考えづらい。
Cさんは穴について投稿者に尋ねるべきかをしばし逡巡していた。
だが、画面をリロードすると他の人が投稿者にコメントで尋ねていた。
「穴空いてるじゃん、どうしたん?」
代わりに聞いてくれた人がいてCさんは少しホッとしたのもつかの間、投稿者からの返事で気持ちが悪くなった。
「なんか壁に顔出てきたから殴った」
これが投稿者からの返事だった。
少し混乱したCさんは画面を何度もリロードした。そのたびに投稿者から穴についてのコメントが入る。
「最初は小さい虫かと思ってた」
「大きくなってきて人の顔みたいに見えた」
「拭いても消えないしアパートだから壁紙も変えれない」
「夜に笑い始めたからゆるせなくなった」
「毎日殴ってた」
最初は普通の人かと思われていた投稿者の書き込みだったが、徐々に異常性を帯び始めた。
他の人からのコメントも、投稿者を心配するものに変わり始めた。
そしてこのコメントを最後に投稿者は消えた。
「俺の顔だった」
数分後に写真自体も削除されてしまい、真相はわからないままだ。




