第十三話 夜の砂浜
夏の日のことである。
Sさんは友人たちと共に女性4人で夜の砂浜へ遊びに来た。
1人が運転する車に乗せてもらう格好だった。
観光地で昼間は多くの人で賑わうが、夜にはポツポツと歩いている人がいるぐらいだった。
家や店のわずかな明かりが遠くに見える。
波を追いかけたり、迫ってくる波を避けたりとそれぞれが楽しみ、彼らの周囲だけが賑やかな様子になっていた。
「周囲に迷惑かなとも思いましたが、浜辺沿いの店も閉まっていたみたいなので、少し騒いでしまいました」
盛り上がった後で少し疲れたのか、1人が砂浜に腰掛ける。
ラフな服装とはいえ、スカートのまま砂の上に座ることをSさんはためらった。
ズボン姿の友人達も次々と横に座っていたが、Sさんは手持ち無沙汰に立ったまま夜の海を眺めていた。
「あれ?」
何かが波の中に見えたようにSさんは感じた。
それは、人の腕だった。
波の中から水面へ助けを求めるように、1本の腕が真上に伸びている。
誰か溺れているのだとしたら大変だ。すぐに友人たちに呼びかけた。
「すぐに友達に話して確認してもらおうとしたんですが、皆が見た頃には消えていたんです」
Sさんが力説したが、他の4人がそれを確認できないでいる間に腕は消えていた。
照らすもののない夜の海である。
気になっているSさんが逆に友人たちに説得され、帰ることになった。
「木の枝とかを見間違えたんじゃないか、と言われました」
見たという人数比でも負けており徐々に自信がなくなってきたSさんは、流れに従って車に乗り込んだ。
だが、どうしても気になり、腕が伸びていた海の方をもう一度見た。
Sさんは目を疑った。
やはり腕はあった。
しかし1本ではない。
10本近い腕が水面に突き出され、虚空をつかもうとうねうねと動いていた。
Sさんは悲鳴を上げたが友人達は怪訝な顔をして、車は出発してしまった。
「どう考えても1人の人が溺れている、という状況ではありませんよね」
当時のことをSさんは思い返していた。
その海では水難事故が多く起きているらしい。




