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第百話

 ようやく百物語も終わりに辿り着いた。

 百物語というのは、百話までしっかり語る場合の方が少ないようだ。

 九十九話まで喋って、最後の一話はその後に訪れるという怪異が代わりになるというのが理由らしい。

 だから私も百話目は書かずに締めようと思う。


 どうやって締めようか。書きながら考えよう。そのままあとがきという形にしてしまってもいいな。

 しかしまあ、百話というか九十九話書いてくるのはなかなかに大変だった。

 特に、五十話を過ぎたあたりからの体調の悪化に辟易していた。これを書き終えたら、会社の有給を取って病院にでも行こうかと思っている。


 さて、発表の前に最後に原稿をチェックしておこう。私は書き上げてきた原稿に最初から目を通していく。

 うん……?

 違和感があった。

 第五十話から先にさしかかり、原稿書きに使っていたエディターの画面を見る。

  

第五十一話 私の消えた友達

第五十二話 はだし

第五十三話 すぐに去った新人

第五十四話 できるまでやろう

第五十五話 にげるなよ

第五十六話 誰か死んだのか 

第五十七話 Dくんがいない

第五十八話 自分でやる

第五十九話 嫌ないたずら

第六十話 とらえたはずの棒


 何の変哲もない、各話のタイトルだ。しかし、不思議と目の前がぼやけてくる。これは、目の病気だろうか。酷使しすぎたか。あるいは脳の……?

 私は痛みを感じながらも画面から目を放すことができない。

 そして、それが見えた。

  

第五十一話 私 の消えた友達

第五十二話 は だし

第五十三話 す ぐに去った新人

第五十四話 で きるまでやろう

第五十五話 に げるなよ

第五十六話 誰か 死 んだのか 

第五十七話 Dく ん がいない

第五十八話 自分 で やる

第五十九話 嫌な い たずら

第六十話 とらえ た はずの棒


 私はすでに死んでいた


 なんなのだ、これは?

 いや、まさか。偶然だろう。私は次の話のタイトルを見る。


第六十一話 田舎には私の居場所はない 

第六十二話 鏡の中には

第六十三話 腕を伸ばすもの

第六十四話 洞窟の中で

第六十五話 見回り後に現れた男

第六十六話 撮り鉄対死者

第六十七話 和室と飛んだボール

第六十八話 波が運んできた袋

第六十九話 うしろにいるから

第七十話 揺らしていたのは誰


 おかしなところはないか。

 いや、これは……

 私には見えた。文字が浮かび上がって主張しているように思えた。


第六十一話 田舎には 私 の居場所はない 

第六十二話 鏡の中に は

第六十三話 腕を伸ば す もの

第六十四話 洞窟の中 で

第六十五話 見回り後 に 現れた男

第六十六話 撮り鉄対 死 者

第六十七話 和室と飛 ん だボール

第六十八話 波が運ん で きた袋

第六十九話 うしろに い るから

第七十話 揺らしてい た のは誰


 私はすでに死んでいた


 まただ、またタイトルがこんなことになっている。

 私はもう目が離せない。次の十話を確かめる。


第七十一話 疲れすぎた私

第七十二話 助けないのは

第七十三話 他にもいますか

第七十四話 勝手に住んでいる何か

第七十五話 声を出せずに

第七十六話 右折妨害と死

第七十七話 こいつが盗んだ

第七十八話 家族が悪魔でした

第七十九話 気持ちが悪い彫刻たち

第八十話 何が通り過ぎた


 これは……わかった。

 考えなくても頭の中に流れ込んでくる。


第七十一話 疲れすぎた 私

第七十二話 助けないの は

第七十三話 他にもいま す か

第七十四話 勝手に住ん で いる何か

第七十五話 声を出せず に

第七十六話 右折妨害と 死

第七十七話 こいつが盗 ん だ

第七十八話 家族が悪魔 で した

第七十九話 気持ちが悪 い 彫刻たち

第八十話 何が通り過ぎ た


 私はすでに死んでいた


 呼吸が荒くなってきた。

 息を吸っているのに吸えていない感じがする。

 目の前がときおり暗くなり明滅する。まさか、何かの呪いだろうか。

 私は机に手を突いた。しかし次の十話を見なければならない。


第八十一話 私利私欲

第八十二話 写真は誰が

第八十三話 惑わす明かり

第八十四話 動画で恐怖体験

第八十五話 鳥居に佇む女

第八十六話 濡れた死者

第八十七話 落ち込んでいた友人

第八十八話 アートで表わされたもの

第八十九話 そこにいた誰か

第九十話 放り投げたら


 もはや文を読めない。

 その文字だけが視界に入り、後は意味のわからない記号にしか見えなかった。


第八十一話 私利 私 欲

第八十二話 写真 は 誰が

第八十三話 惑わ す 明かり

第八十四話 動画 で 恐怖体験

第八十五話 鳥居 に 佇む女

第八十六話 濡れた 死 者

第八十七話 落ち込 ん でいた友人

第八十八話 アート で 表わされたもの

第八十九話 そこに い た誰か

第九十話 放り投げ た ら


 私はすでに死んでいた


 心臓が痛い。

 何かにわしづかみにされているような感触だ。

 タイトルは私の意志で決めたはずなのに、なぜこのような呪いのような言葉が含まれているのか。

 暗澹たる気分で私は九十一話から先のタイトルを確認する。


第九十一話 私には見えた

第九十二話 犬は知っている

第九十三話 朝のすれ違い

第九十四話 旅行先で

第九十五話 床が青色に染まる

第九十六話 予告された死

第九十七話 夢の中で苦しんだ話

第九十八話 閉鎖された炭鉱で

第九十九話 このために育たない


 これは、少し趣向が変わっているが結果としては同じだろうか。いわゆる斜め読みだ。


第九十一話  私 には見えた

第九十二話 犬 は 知っている

第九十三話 朝の す れ違い

第九十四話 旅行先 で

第九十五話 床が青色 に 染まる

第九十六話 予告された 死

第九十七話 夢の中で苦し ん だ話

第九十八話 閉鎖された炭鉱 で

第九十九話 このために育たな い


 私はすでに死んでい


 文が完成していない。 

 そうか。私は気づいた。第百話のタイトルは、確かまだ決めていなかった。

 いや、そもそも第百話を書くつもりもなかったのだ。


 しかし私はかすんだ目に映る光景に驚愕した。PCの画面にひとりでに文章が打ち込まれていく。

 タイトルの欄だ。これは、これはもしかすると……


第百話 私は


 文字がローマ字入力され、変換されていく。そうか。第百話まで全てタイトルが入ることで、あの一文が完成するのだ。


第百話 私はすでに死んで


 私が普段キーボードを叩くスピードとは比較にならない遅々としたペースではあるが、確実にタイトルの一文が打ち込まれていくのを私はただ見ていた。

 身体が重く、腕どころか指一本すら動かせない。私は机の前に突っ伏し、タイトルが何者かに打ち込まれていくのを顔を横にしながら見るしかない。


 もう終わりだ。私は百物語を書くべきではなかったのだ。

 そしてそのタイトルが完成する。


第九十一話 私には見えた

第九十二話 犬は知っている

第九十三話 朝のすれ違い

第九十四話 旅行先で

第九十五話 床が青色に染まる

第九十六話 予告された死

第九十七話 夢の中で苦しんだ話

第九十八話 閉鎖された炭鉱で

第九十九話 このために育たない

第百話 私はすでに死んでいた


 ん?


第九十一話  私 には見えた

第九十二話 犬 は 知っている

第九十三話 朝の す れ違い

第九十四話 旅行先 で

第九十五話 床が青色 に 染まる

第九十六話 予告された 死

第九十七話 夢の中で苦し ん だ話

第九十八話 閉鎖された炭鉱 で

第九十九話 このために育たな い

第百話 私はすでに死んでいた


 第百話のタイトルの字数が足りず、斜め読みになっていない!

 にわかに身体が軽くなり、私は上半身を起こして画面を確認した。

 そうか。「第九十九話」は五文字だが、「第百話」は三文字。それによる字数の調整を最後の最後で何者かは怠ったのだ。

 しかしまだ諦めてはいないのか、何者かはタイトル画面に一度入力したタイトルを消して修正を始めた。


第百話 私はすでに死んでしまっていた

第百話 私はもう死んでいた

第百話 私はすでに死んでいたよ

第百話 私はとっくに死んでいた

第百話 実は私はすでに死んでいたんだけど


 消しては直し、消しては直し……リテイクが続いていきそうだったがすでに私は身体の自由を取り戻していた。

 名残惜しそうに修正がいまだ行われているブラウザを落とし、私はそのままPCをシャットダウンした。


 再度PCを立ち上げると、百話目のタイトルは「第百話」とだけあった。

 タイトルを入れようとしていた何者かは、うまく文章を思いつかなかったのだろう。

 とにかく生き残った。無事だった。


 こうしてこの百物語は完成したのである。



百物語 厄災 完

ここまでお読みいただきありがとうございました。

なんとか書き終えられましたのも、いただいたブクマやいいね、評価に助けられてのことと思っています。感謝しております。


もしよければ評価など入れていただけますとありがたく思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます✨ 毎日楽しみに読んでいたので、明日からちょっとさみしいです… でも、本当にお疲れ様でした。百話目も最後まで楽しかったです!
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