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シュガーのやつと最初に会ったのは、俺が領主の屋敷に閉じ込められて、もっぺん死ぬ算段しとった頃だ。いきなりズカズカ入ってきて、「ヒマならエッチなことでもしよう」なんてぬかしやがって、俺はちょっと薄気味悪くなったくらいだ。
俺の監視役ってはずだったがセドリックにもあれこれちょっかい出すし、学院が始まってからはマジ、好き放題遊んどるだけじゃねえかって思ったわ。
だもんであんな、俺らをかばって死んじまうなんて、信じられんかった……。
ほんというとあの日はセドリックと同室の奴をシュガーがたらし込んで、替わりに俺がセドリックのとこ行って告るって手筈だった。
どの道スパッとフラれるのはわかっとった。わかっとったが、俺はもう学院にはいられねえから、逃げる前に別れだけは言っとかなと思ってさ。
でも、あん時あいつは真っ青な顔して声も震えとって、手をはなすと消えてなくなっちまうような気がした。あの細くて奇麗な体で、いつも無理に重たい荷物をかかえてるんだ。
あいつは言ってた。
領主の子はボンクラじゃいられねえって。
だから俺も腹をくくったんだ。
領主の屋敷に戻ったら「せめて常識くらい身につけて頂きませんと」なんつって家庭教師がぞろっと来たけどさ、奴らが言うことなんか全部セドリックに教えてもらったことばっかりだったわ。
彼と再び会う為に、私もボンクラではいられない。
――な?喋り方も直したぜ?学院の頃はほとんど喋らんようにしとったが。
州議会ってのも貴族ばっかでさ、平民の方言は通じねえんだ。今は平民の代議士もいるし、うぜぇ貴族の爵位はあらかた取り上げた。
んでも話の通じる貴族もいるもんで、そのひとりが女房のオヤジさんだ。セドリックも読んでたむつかしい本を書いた学者先生なんだと。助手をしとった娘も気のおけない女で、もろもろ申し分ないってことで一緒んなった。
あいつにも女房子供ができたのは知ってたし、ガキこさえんのも領主の仕事だって女のほうから口説かれちゃ後にも退けないしでな、まあ、そんなこんなで。
再会はあっさりしたもんだった。
控えの間から円卓会議の議場へ向かう回廊で「シュクーリ公」って呼ばれて、「ご健勝そうで何より」って。それだけ。
問題はそのあと議場での就任式だ。
何の嫌がらせか知らんが、新たに会議に加わる奴は神殿の石像みたいなゆるい衣装を着て、黄色い石のキンモクセイの花飾りをつけたティアラを頭に乗っけられるんだ。どんなおっさんでもだ。不気味だ。
それがセドリックの明るい金髪にはよく似合って、白くてすべすべした肌もまぶしいくらいでさ、あれはぜってー他の奴らもエロい目で見とったわ!
少なくとも俺はいろいろ想像した!
つか思っただけな?そういう相手はひとりきりだ。
それに、その頃もう女房は具合悪くて寝たり起きたりだったもんで、俺はまた、みんな俺のせいじゃねえかって思いはじめとった。俺と関わるとあいつも死んじまうんじゃねえかってさ。
フランクが死んだとき言われたんだ、じいさんに。
母さんも俺を産んだせいで、そのあと嫁いだ先で旦那に殴られて死んだんだって。
俺は呪われてんだって。
―――だが違った。
シュガーは死んでなかった。
全く年さえ取ってねえって、ふざけんな。
異能力者ってのは俺も知ってんだ。親父が実はそれだったからな。
化け物が見える、妙な声も聞こえるっつって閉じこもって、そのうち寝れねえ食えねえ起きれねえってなってさ、それが全部異能力のせいだったって。
早く訓練すればよかったらしいが、じじいも誰も信じねえで放っといたもんで手遅れだ。ま、余命一年のところ二年もったけどよ。
シュガーのは訓練うんぬんじゃなく、ただ死ねねぇんだと。ふざけんな。
チカラは血に宿るっていうらしい。
シュガーの血肉が女房の病に効くかも知れんて柊協会の奴らは言う。
女房はもう一年くらい目を覚まさねえ。おおかた覚悟もしとったが、ちょっとでも助かる目があるってんならそりゃ、出来る限りのことはしてやりてえよ。
俺の目的があと一歩のとこまで来れたのは、女房とオヤジさんのおかげなんだ。
領主になって領主も貴族もぶっ潰す。――それが俺の目的だ。セドリックに世界の色んなことを教えてもらって思いついた。
あん時、あいつを攫って逃げたとして、あいつはそんなのきっと許さねえし、俺らふたりともダメになっとった気がする。
今はそんな世界だ。だったらぶっ壊して変えちまえばいい。
そういう俺の大風呂敷をあの親娘はさ、バカにせんと聞いてくれたんだわ。
シュガーの奴、昨日はぶつくさ言っとったが、そりゃま生き肝取られるなんて普通あり得ねえわな。柊協会って連中もあんまり信用ならねえし。
だから今日はサシで話して頼むつもりだ。なんなら俺のケツくらい差し出してもいい。嘘だが。
つーかな、呪われてんのは俺じゃなく奴のほうかも知れねえな……。