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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第七章 己のあかしはどこにある ~同じ空を見上げるために~
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第88話 花園の出会い

「これでよし」


 高校の校舎に囲まれた中庭。園芸部に所属している楓也は、昼休みを使って花や植物たちの世話を終えると、どろのついた顔をほころばせた。園芸部は現在、一年生の彼と三年生の先輩が二人いるだけだ。後者は今年から受験勉強ということもあり、もっぱら手入れを行っているのは楓也だけという状況である。


「わあ、きれい」


「?」


 背後から声がして振り返ると、そこにはクラスメイトの押垂おしたり夕鈴ゆうりが立っていた。彼女は普段、なぜか授業が終わるとすぐにどこかへ消えてしまう。ゆえにまだ一度も話したことはなく、入学から二週間ほど経った今日、初めてまともに声を聞いた次第だ。


「あの……きみ、押垂さんだよね」


「え、わたしの名前おぼえているの?」


「まあ一応。ぼく生徒会にも入ってるし、そのへんは仕事のうちというか」


「そうなんだ? ふふ、すごいね」


「こ、これくらい普通だと思うよ。……ねえ、それよりさ。ひとつ訊いてもいいかな」


「はい、なんでしょう?」


「ずっと気になってたんだけど。押垂さんって、もしかしていじめられてたりする?」


「……い、いじめ? どうして?」


「いつも教室にいないからさ。かといって他のクラスに行ってるような話も聞かないし……本当は何か嫌なことがあって、どこかに隠れてるのかなって」


「あー、なるほど……ううん、大丈夫だよ。いじめられてるわけではないから」


「わけではない、か。じゃあやっぱり何か理由はあるんだ?」


「ええっと、なんて言ったらいいのかな……わたし、たくさん人がいるところが苦手なの。だから授業中以外は屋上おくじょうのほうで過ごしていて……」



「こりゃ、オレの記憶?」


 演技中の楓也が意識体となって浮かび、在りし日の映像を見ている。

 ヴェリスの過去生かこしょうを見たときとまったく同じ状況だ。

 呆然とする彼に対して、水月の楓也が言った。


「そう。押垂さんと初めて会話した日の光景だよ」


「……押垂夕鈴……」


「思えば、彼女は超感覚の弊害へいがいがあるから屋上へ避難ひなんしていたんだろうね。さて、続きを見ようか」



「そうだったんだ……先生からはそういう話、特に聞かされなかったけど」


「あ、それはたぶん、わたしが"みんなには言わないでください"って口止めしたからかも。ご心配をおかけしてごめんなさい」


「いや、事情はわかったし大丈夫。で、今日はなんでここに?」


「実は屋上でメンテナンス作業があるらしくて、通せんぼされちゃったの」


 夕鈴によると臨時で業者が入っており、担任にも今日くらいは我慢がまんするように言われてしまったとか。しかし彼女の人混み嫌いは深刻のようで、途方に暮れて各所をさまよっていたところ、最終的にこの中庭へ辿り着いたのだという。


「災難だったね……ここ、ぼく以外が来ることってほとんどないから。今後も困ったときは好きに使えばいいと思うよ」


「ほんと? ありがとう! やっぱり青波くんはいい人だ!」


「そ、そんなことないと思うけど」


「あるよ。お花たちもみんな、あなたが優しいって言ってるし」


(……は?)


「ふむふむ、育てる人がいいとお花ってこんなにきれいに咲くんだね。ん、でも一輪いちりんだけ元気のない子がいる……」


「! どれ!?」


 夕鈴がこれだと言った花を確認すると、一見なんの問題もなさそうに美しく咲いている。しかし虫眼鏡を使ってよく観察したところ、わずかに斑点はんてんがあると判明した。おそらく病気になりたての個体と思われる。


「……こんなの見つけるなんてすごいね。植物くわしいんだ?」


「ふぇ? あ、ああ~そんなこともあるような、ないような……」


「なんにせよ助かったよ! とにかく植え替えしないと」


 その後、作業が終わった楓也は改めて夕鈴にお礼を言った。


「ありがとう、おかげでなんとかなりそうだ」


「どういたしまして!」


「ところで押垂さん、部活とかやってないよね? さっきも言ったけど、基本ここはぼくしかいないし……もしよかったら、一緒にこの植物たちを育ててみない? 君がいてくれたら、とても心強いと思ってさ」


「……えっと。誘ってくれてありがとう青波くん。でも、部活はダメなんだ」


「どうして?」


「わたしには……他にどうしてもやらなきゃいけないことがあるから」


 その瞳にはほのかな慈愛じあいと決意の炎が揺らめいており――楓也にはどの花々よりも美しく映った。彼女がここまで言うからには、よほど大切な用事があるのだろう。残念だと肩を落とす彼に、夕鈴は励ますように言った。


「ただね、今日みたいな感じでよかったら、またお話することはできると思うの! だから……これからもよろしくお願いします!」


 そうしてペコリと頭を下げ、チャイムの音とともに去ってゆく夕鈴。

 もう昼休みも終わりだ。

 近くの水道で顔を洗いながら、楓也は先ほどのやり取りを思い出していた。


(押垂さん、ぽわぽわして不思議な子だったな。……また話せるといいな)

お読みいただきありがとうございます。

夕鈴回です。もう少し続きます。


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