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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第七章 己のあかしはどこにある ~同じ空を見上げるために~
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第87話 本心

(疑似人格の形成――彼だからこそなせるわざだね。姑息こそくな手段としては申しぶんない)


「おい、シカトかぁ!?」


 声をあらげる楓也。人が変わったかのような攻撃的な言動を華麗かれいにスルーし、明虎あきとらは森の中へと走り出す。


「あ、てめぇっ! 待ちやがれ!」


 彼が反射的に追いかけてくるのは想定の範囲内だった。明虎による誘導が始まり、二人はどんどん湖の方向へ進んでゆく。結界から出てしまったためそこらじゅうに魔獣がのさばっているが、目の前でこれだけ無防備にチェイスを繰り広げているというのに、どの個体も襲いかかってくる気配はない。


(ちゃんと偽装ぎそうできているようで重畳ちょうじょう。そう、光が駄目だめなら闇を飼いならせばいいのさ。まあ魂レベルでそれをできる者は稀有けうだろうけどねぇ)


「クソォ! アイツぜってぇオレを小馬鹿にしてやがるぞ……許さねぇ! つーかこの女装はなんなんだ!? 何から何までムカつくぜぇ~!!」


 楓也はひとり騒ぎながら髪を逆立て、見た目をパンクな格好に変更した。手には釘バットを持ち、親のかたきのごとく追尾してくる。


(……今の彼はSSⅡとⅢのあいだといったところかな。一時的とはいえ、心と人格を切り替える迫真の"演技"――戻ってくるトリガーはどこに設定しているのやら)


 まもなく目的地に到着した明虎は、おもむろに空へとのがれた。

 湖の真ん中で浮遊する彼は、月光をバックに振り返る。


「あっ、飛ぶなんて卑怯ひきょうだぞ! こっち戻って来いや!」


「君の相手は私ではない。下を見たまえ」


「は?」


 明虎の指さす方を見ると、波ひとつない水面みなもが月と夜空を映し出している。水平線を境界として、まるで二つの世界がそこにあるかのような錯覚。その美しくも幻想的な光景に、楓也は息をのんだ。しかし魅入みいられたのも束の間、にわかに水月すいげつが姿を変え、現実の楓也をかたどってゆく。


「てめぇは……」


「ぼくさ。きみが一番よく知っているはずだろ?」


 さながらドッペルゲンガーとの対話。あまりに非現実的な状況だが、明虎にとってこれこそが狙いであった。彼は二人を邪魔せぬよう上空へ浮かび上がり、存在感を消して経過を見守る。


(さて、陽だまりの風の命運やいかに。君の信じるものを守り抜く意味でも、ここが大一番おおいちばんになるだろう。せいぜい気張らないとねぇ、もぷ太くん)


 明虎のことなどすっかり忘れ、闇夜のなかで対峙する楓也たち。

 先に言葉を吐露とろしたのは、演技しているほうの彼だった。


「ああ、よーく知ってるぜ。お前は負け犬のオレ(・・・・・・)だ」


「…………」


「大事なもんつかみ損ねた挙げ句、親友だからとか言ってアイツにすべてをゆだね、みじめに腰巾着こしぎんちゃくやってるだけのあわれな存在」


「…………」


「心の口癖くちぐせは『これでいいんだ』ってか? 無理やり綺麗事を言い聞かせて、クソみてぇな現実を受け入れんのがそんなに楽しいかよ」


「……楽しいわけないじゃない。ぼくがそれで何度泣いたと思ってるの」


「ヒャハ、なんだよ自覚あんじゃねぇか。ならとっとと計画でも立てたらどうだ? いつもの調子でよぉ、押垂おしたり夕鈴ゆうりが生き返ったら、阿岸あぎし佳果よしかが死ぬ的なシナリ――」


「……きみ、少しやり過ぎ。思ってもないことを口にするのは身体によくないよ」


「あ……? ……っ!? こりゃいったい」


 気がつくと、彼は自分の腕の皮膚を思いきりつねっていた。すでに内出血しているのに、止めることができない。


「痛ってぇ……おいてめぇ、なにしやがった!!」


「ぼくは何もしてない。その自傷はきみが、きみ自身の本心とは異なる言葉をかたっているから起きているんだよ」


「あァ……?」


「資格はあるようだね。じゃあひとまず行こうか、記憶の世界に」


 水月の楓也がそう言うと、一帯が闇に包まれる。

 そして始まったのは追想ついそうだった。

お読みいただきありがとうございます。

演技中の楓也は"家族"以外の記憶がありません。


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