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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第七章 己のあかしはどこにある ~同じ空を見上げるために~
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第85話 夜のとばり

 佳果が神社へ訪れていた頃。

 楓也はひとり、冥土めいど湖畔こはんまでやってきていた。現在、目的の湖まであと数キロの地点にある森林地帯に潜伏中だ。アーリアと約束した定期連絡のチャットを打ち終えると、彼は呼吸を整えた。


(ひらすらに暗いな)


 この一帯は常夜とこよらしく、ぼやけた月明かりを除いて光源はない。そのうえ例によって強力な魔獣が跋扈ばっこしているため、視界の悪い森のなかを闇雲に進むのは非常に危険である。


(まあ隠密おんみつの観点から見れば、かえって好都合かもしれないけどね)


 クイス時代に愛用していた黒装束を身にまとい、石橋をたたく楓也。この装備は自身の存在感を消すことができる代わりに、防御力が0になるというデメリットがある。元々は劇場で黒衣くろご用に使われる代物なのだが、彼にとっては懐かしき仕事服(・・・)だ。


(あの頃はまだ押垂おしたりさんも……ぼくがもっとしっかりしていたら、違う未来もありえたのかな。……ってダメだダメだ。後悔ばかりじゃ、また阿岸君に笑われちゃう)


 アラギで一緒に入った温泉のあたたかさを思い出し、心に勇気の炎をともす。この仕事が終わったら、本当の意味で隠し事はなし――ひそかなる決意を胸に、彼は湖まであともう少しの地点へと到達した。


(ふう、ラムスを出てからもう数時間。このゲーム、こんな高難度のマップもあったんだね……それにしても、さっきから妙だな)


 楓也の隠密は、こちらが先に危険を察知することで無駄な戦闘をけ、適宜迂回(うかい)滞留たいりゅうといった選択を行う主導権をにぎり、安全な任務遂行を優先するスタイルだ。よって魔獣を発見すれば、基本的にその場を離れるか息をひそめるかの二択になる。


 ただし運わるく複数体に挟まれるような状況におちいった場合のみ、シムルから貰ったブレスレットを装備して、魔除けで切り抜けるかたちとなるのだが――湖に近づけば近づくほど、目に見えてその効果が弱まってきているのだ。ウーはこの場所にある"夜の水月"がフィラクタリウムのついになると言っていたが、まさか。


「グォォオオオオオ!!」


 茂みのかげで熟考していた楓也の背後に、突如クマ型の大きな魔獣が現れ咆哮ほうこうした。ビリビリと鼓膜こまくが振動し、驚きのあまり心臓が飛び出そうになる。


「な、なんでバレたの!?」


 案の定、騒ぎを聞きつけた他の魔獣も多数あつまってくる。あわてて装備をもとに戻し距離をとってみるが、既に囲まれてしまっているようだ。


「くっ……あとちょっとなのに、最初からやり直しなんて御免ごめんだよ!」


 彼は固有スキルの《フォルゲン》を発動させる。しかし魔法が発生することはなく、スキルはそのままクールタイムに入ってしまった。


「なっ……!?」


 焦燥感に駆られる。アスターソウルは魂に応じてステータスの伸び方が異なるためプレイヤーごとに得手えて不得手(ふえて)があるのだが、楓也は知力や魔力の高い魔道士系であるゆえ、魔法が使えないとなると戦略的な幅が一気にせばまってしまうのだ。それを補うために訓練した会心撃(クリティカル)の技術も、この状況とロケーションでは満足に発揮はっきすることもできない。


「キシャア!!」「ン゛ン゛ン゛!!」


「うわあ!」


 泣きっつらはち。次々と襲いかかってくる魔獣はすべて、割合ダメージと固定ダメージの複合攻撃を使用するようだ。一撃かすっただけで体力の10%以上が持っていかれた事実に、戦慄せんりつが走る。


(レベル差無視ってこういうこと!? こんなのどんなプレイヤーだって……! ま、まずい……このままじゃ落ち――)


「まったく詰めが甘い」


 不意に頭上から声がする。

 気がつくと、楓也は上空から湖畔の森を見渡していた。


「あなたは……」


「空も飛べないなんて不自由だねぇ、もぷ太くん」


 粘りつくような声と黒ずくめの姿。

 それはまごうことなき、波來ならい明虎あきとらであった。

お読みいただきありがとうございます。

忘れた頃に出てくる明虎さん。


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