第81話 帰郷
("法界の箱舟"か……)
佳果が凛々しい顔で思案している。
ウーの助言によって明らかになった魔境の存在と、そこへ行くために必要な船――正式名称を法界の箱舟というらしいが、この船を造るには大量のフィラクタリウムが必要になるそうだ。そこで一同は、シムルの故郷であるラムスの村を訪れていた。
「お~シムル! 兄ちゃんたちも!」「おかえりなさい!」
「ただいま!」
シムルの両親であるゼイアとナノが出迎えてくれる。あれからそこまで月日は経っていないが、村はすっかり活気を取り戻しており、道行く人々はみんな笑顔だ。
一通りのあいさつを済ませた彼らは、さっそく本題に入った。
「そんで、今日はどうしたんだ? 知らねぇ顔も混じっているようだが」
「父ちゃん。実は折り入って相談があるんだけどさ……おれたちにフィラクタリウムを分けて欲しいんだ」
「フィラクタリウムを……?」
「あらあら、またみなさんにプレゼントをつくってさしあげるの?」
「いや、今回はそういうのじゃなくて――」
シムルがあらましを伝える。ゼイアはうんうんと頷きながら、両腕を組んで鉱山の方角を見た。彼はここでの採掘業における責任者の立場だ。身内とはいえ、鉱物資源を利用するならば必ず了承を得なければならない。
「――ってわけなんだよ。たぶん、莫大な量が必要になっちゃうと思う。……ダメかな」
「がはは、恩人を前にしてダメってこたぁねーよ!」
「ええ、わたし達は家族なんですから。困ったときは助け合って当然です」
「ほ、ほんと!? ありがとう父ちゃん、母ちゃん!」
抱き合う親子を見て、ノーストと零子が目を細める。
(恩人か……あやつが生きていたら、吾らもまたこのような関係を築けたのであろうか。……いや、たらればなど馬鹿馬鹿しい。我ながら柄にもない思考をしたものだ)
(とっても素敵な親御さんです! ……あたしも、いつか絶対……!)
人知れずため息を押し殺す彼と、心でガッツポーズをとる彼女。
ウーは空中から、そんな二人をじっと見つめていた。
(レイちゃんもこの魔人さんも、色々と抱えているんだなぁ。でもすでに陽だまりの風の影響を色濃く受け始めている……主様、吾輩なんだかこれからのことが楽しみになってまいりました!)
後方でそれぞれモノローグを展開する三名。
露知らず、佳果はゼイアたちにお礼を言った。
「すんません、マジで助かります」
「いいってことよ! ただなあ、俺としちゃ一向に構わないんだが……偽の部隊に占領される前、ラムスは元々プリーヴって商人に採れたもんを卸しててな。あの人に何も言わず、俺の一存でぜんぶ決めちまうのはちょっと乱暴かもしれねぇ」
「プリーヴさん、ちょうどいま宿屋のほうにいらしてますから。旦那を使ってくださって構いませんので、お手数ですが彼にも交渉していただければと存じます」
「わかりましたわ。では、またあとでゆっくりお喋りしましょうね、ナノさん!」
「はい、ぜひ!」
手を繋ぎ、笑い合うアーリアとナノ。二人はすっかり仲良しのようだ。
そして一行は宿屋にいるという商人、プリーヴへ会いに行く。
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シムルのお父さんの名前は、この話が初出です。
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