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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第六章 相容れぬ壁の向こう ~うずく尊厳の声~
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第80話 居場所

 情況の理解が進んだところで、ここまで冷静に話を聞いていた楓也が今後の方針を立てるための確認を行った。


「いったん整理しますが、要は魔物たちが飢えたら収拾がつかなくなるわけですよね? ならぼくたち陽だまりの風がやるべきなのは、それを阻止すること――単純に考えれば、食糧問題さえ解決できればいいんでしょうけど……」


「それがすこぶる難しい。魔物は図体ずうたいの大きな者が多く、もともと食欲が旺盛おうせいで大食らいの性質を持っている。人間の数倍は腹持ちするゆえ、なんとかこれまでは食いつないでこれたが……」


「彼ら全員を満腹にさせるには、相当量が必要になると。……サブリナさん、国のほうから支援とかってできませんか?」


「厳しいですね。フルーカ女王であればきっと無理にでも力を貸してくださるでしょうが、この世界の住人にとって魔の存在とは脅威の象徴しょうちょう。その延命に加担したとなれば、内紛ないふんが起こる可能性も否定できません」


「やっぱりそうなりますよね……」


「ばあさんには世話になってるし、あまり迷惑は掛けたくねぇよな。別の方法も考えてみようぜ」


 佳果が頭をひねる。今しがたサブリナが説明したように、人間側がつくったものを分け与えるという発想は倫理的な問題がつきまとう。では自給自足はどうだろうか。


「畑でもたがやしてみるのはどうだ?」


「現実的ではないな。吾らをまかなえる規模で農作を行うには、まず広大な土地が必要だ。しかしこの世界の土地はすべて人間側に所有権があり、無理に手を出せばすぐに闘争の火種となってしまう。それにもし魔物が住まうとわかっていながら明け渡すような者が現れたとしても……そんな奴こちらから願い下げだ」


「あん? なんでだよ」


「……吾は過去に、その方法をこころみて失敗している」


 以前、ノーストは友好的な人間と出会ったことがあった。その者は彼らの抱える不憫ふびんさを見かねて、無償で土地を提供してくれたのだという。やがてその地には魔物たちの村がおこり、栄え、一時は順風満帆(まんぱん)に暮らせていた時期もあったそうだ。


「だがある日――村は焼き払われた。そして吾らを助けてくれた恩人も、『むべきモンスターをかくまい、あまつさえ人類の未来をおびやかした』という罪に問われ、殺されてしまった。……あやつはおのれの善意が引き寄せた悪意に、淘汰とうたされたのだ」


「そ、そんな……」


 零子が口元を押さえて悲痛な顔をする。


「恩人の墓前ぼぜんで吾は誓った。もう二度と、人間の領土は侵さぬとな。ゆえにその方法を採ることは御免ごめんこうむる。……すまぬ」


「…………」


 黙りこくる佳果。

 ノーストたちが人間を尊重し、最後に自滅を選ぼうとするほどの気位を持ち合わせている理由がわかった気がする。彼らは愛に触れた先で、愛を失ったのだ。楓也はそんなノーストの心をみ、さらに別の手段を提案しようとするが――。


「……アスターソウルには海がありません。となると、人目に触れず魚をとって生活していくのも無理でしょう。人間が頼れない、自力での生産も許されない、食資源は限定されている……正直この状況下で、供給不足をクリアするのは至難のわざだと思います」


「……楓也でも難しいんだ」


「ごめんねヴェリス、かっこいいところ見せたかったんだけど」


八方塞はっぽうふさがりってやつか……アーリア姉ちゃん、なんとかならない?」


 シムルが救いをう眼差しで尋ねる。

 彼女はあごに手を当てて目を閉じ、うーんとうなった。


「わたくしもまだ具体的な方法までは……ただお話を聞いていて一つ思いましたの。この世界は、魔人や魔物にとって不自然(・・・)なほど不条理にできているのではないか、と」


「不自然? お姉さま、それはどういう……」


「はっきり申し上げますと、この世界にノーストさんたちの居場所はないのだと思います」


 一瞬、全員の時が止まる。だがアーリアに限って、彼らを切り捨てる意図でそのような発言したわけがない。おのおの、彼女の言葉をよく咀嚼そしゃくする。そして最初に口を開いたのはノーストだった。


「まさか」


「ええ。根拠はありませんけれど、そのまさかではないかと」


「いやいや、どのまさかだよ姉ちゃん!」


「……他の世界がある(・・・・・・・)ってこと?」


 ヴェリスがぽつりとこぼした言葉によって、全員がはっとした表情になる。アーリアは小さく頷いた。


「その世界がどこにあって、どうやって行けばよいのかはわかりません。ですが幸い、わたくしたちの中には一名だけ、その答えを知っておられそうなかたがいらっしゃいます」


「俺らの中って――」


 一斉に視線が向けられた先には、きつねの姿でのんきに浮かんでいるウーがいた。


「わ、照れるなぁ」


「ウーちゃん、何か知っていることはありませんか?」


「お前、龍神の元で働いてたんだろ? たしかにそういう話にも詳しそうだよな」


 零子と佳果が期待の眼差しで尋ねる。

 ウーはちらりとアーリアを一瞥いちべつした。彼女はアスター城下町の時のように、助言を止めるような素振りを見せない。つまりこれは自由意志を侵害しない範囲ということなのだろう。ほっとした彼は、真面目な口調で語り始めた。


「うん。確かにあるよ。魔人とか魔物だけが住んでる場所」


「なっ……! それは本当か!?」


「あなたが驚くのも無理はないね。なにせ生まれる前の記憶(・・・・・・・・)がないんだから」


「!」


 トンデモ情報が飛び出してきて絶句するノースト。

 彼をよそに、ウーは続けた。


「その世界は一般的に"魔境"って呼ばれてる。で、魔境に行くためには専用の船が必要になるんだ。みんなはまず、その船を造るところから始めるべきだと思うよ」

お読みいただきありがとうございます。

何事においても棲み分けは大事ですが、

それだけでは本当の意味で共存することもできない。

難儀な部分だと思います。


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