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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第六章 相容れぬ壁の向こう ~うずく尊厳の声~
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第78話 シムルの挑戦

「待たせたな!」


 ウーに乗った佳果、アーリア、零子が手を振って大穴から出てくる。ひとまず全員無事だったようだ。しかしその後ろには見慣れない人物が空中浮遊をしながら同行している。楓也たちは安堵と警戒が入り交じった面持おももちで、彼らを出迎えた。

 ノーストは地上に降りて早々、興味深そうに陽だまりの風を値踏みしている。


「ほう、他のおんな子供こどもですら愛が優勢とは」


「……佳果、この人だれ?」


 佳果の後ろに隠れるヴェリス。魔人であるノーストの風貌ふうぼうや、その無遠慮な物言いに気後きおくれしてしまったのだろうか。彼女は少し震えている様子だ。


「ヴェリス、大丈夫か」


「……」


「……われに恐れをなしたようだな。まあ至極まっとうな反応ともいえようが、うぬの場合は――さしずめこれが視えているといったところか」


 ノーストが右手の人差し指を立てた。ヴェリスはその指先に何かがあるのを認識できるらしく、いっそう不安そうな顔になってしまう。それを見かねたシムルが、一歩前へ踏み出して静かに彼を牽制けんせいした。


「おいお前。兄ちゃんたちが連れてきたってことは訳ありなんだろうけど、いったい何者なんだ? まずは名乗るのが礼儀ってもんだろ」


「違いない。吾はノースト=アドモネア。小僧は?」


「……シムル」


「あ、ちなみにぼくはもぷ太です」


「ふむ。胆力のある小僧に、容姿を目眩めくらましとする魔道士か……つくづく奇特な連中がそろっているな。さておきむすめよ。まずはゆっくり呼吸を整えるがいい」


 ノーストは腕を組んだまま浮かび上がると、少し離れたところで待機し始めた。彼なりに配慮してくれているようで、いくらか恐怖心のやわらいだヴェリスはふうと息を吐き、そばにいたアーリアに抱きついた。


「……ヴェリスちゃん、視えているんですのね?」


「うん。あの人、外側の黒(・・・・)をたくさん持ってる。まだ心臓がどきどきして、ちょっと気持ち悪いかも」


「そういうことか……なら、光を食わねぇとな。今ゾーンに入ってやるから、少し待って――」


「いや、兄ちゃん。おれにやらせてくれ」


 構える佳果をシムルが制止する。だが、彼はまだゾーンへの到達に成功した経験がない上に、そもそも奥義を練習した回数自体が非常に少ない。シムルの性格からして単に見栄みえを張ったというわけでもないのだろうが――。


「……何か考えがあるのか?」


「ああ。兄ちゃんたちは戦いで疲れてるだろうし、そこで休んでてくれ」


 そう言ってシムルは、ノーストの元へと近づいてゆく。


「何用だ」


「……お前、強いんだろ?」


「……あのアーリアという娘には完敗したがな。そこそこの心得はあるつもりだ」


「ならちょっと手伝ってくれないか。おれがギリギリ避けられる攻撃を、少しのあいだ打ち続けて欲しいんだ」


「ほう?」


「シ、シムルさん! いくらなんでもそれは危険です!」


 彼の突飛とっぴな提案に、零子が慌てふためく。なにせ、仮にもレベル差が180ほどあるのだ。ノーストが手加減したとしても、直撃すればただでは済まないだろう。


「そうですわシムルくん、危険なことはお止めに――」


和迩わにさん、アーリアさん。ここはシムルを信じてやってくれませんか?」


「楓也ちゃん?」


「たぶん、あの子が一皮むける機会があるとしたら……まさに今じゃないかと思うんですよ。ただの勘ですけどね」


「お~、やっぱお前もそう思うか。俺もさっきのあいつの目を見たけどよ、すげー気合い入ってたもんな」


「な、なんですかその根拠のない全幅ぜんぷくの信頼は……」


「まあまあレイちゃん。緊急時は吾輩がなんとかするから、見守ってあげようよ!」


 ウーの言葉を聞いてしぶしぶ承諾する零子。アーリアも少し思うところはあったようだが、やがて「男の子ですわね」と心のなかで納得し、見守る覚悟を決めた。


「シムル! 例によってゾーンには意識のズレが必要だ! けどそればかりにかまけてると動きがにぶっちまうぞ! くれぐれも気ぃつけろよ!」


「わかった! ……じゃあ頼むぜおっさん!」


「よかろう」


 ノーストが構えると同時に、シムルは固有スキルのテントーマを発動した。にわかに彼がまとった青白いオーラを見て、零子はふと記憶との齟齬そごを口にする。


「テントーマ……あれ、でもシムルさんのスキルって経験値が増える的な、レベリング向けの効果ではございませんでしたっけ?」


「そのはずだが……あいつがこの局面で使ったってことは」


「何か応用を思いついたのかもしれませんわね」


「……」


 ヴェリスの見つめる先で、シムルがノーストの攻撃を紙一重でかわし続けている。さなか、彼の目論見もくろみは早くも成就の時を迎えつつあった。


(この力は潜在意識――つまり"無意識"を引きのばすもの。なら!)


「む」


 止めどない瀬戸際せとぎわの攻防。心身に極度のストレスがかかったシムルは、徐々に変性意識の状態へと入っていった。いつもであれば顕在(けんざい)意識のほうが"無意識"をとらえようとして、逆に集中が途切れて失敗する頃合いだ。ところがテントーマの効果によりそれが引きのばされている今、彼がその領域(・・・・)へ足を踏み入れるのは造作もないことだった。


「! 阿岸君!」


「ああ、まさかこんな短時間で……!」


 青白かったシムルのオーラが、彼の魂と同じオレンジ色へ変化してゆく。そして佳果の手本をよほど注視していたのだろうか、彼は繊細で難しいはずのエネルギーの均一化についても淡々とやってのけた。当然、相手()っているノーストにもその機微きびは伝わっている。


(……一時的なものなのだろうが、愛の光が増しているな……面白い技を使う)


「助かったぜおっさん――いや、ノーストさん。あんた、見た目ほど嫌な奴じゃないみたいだな」


 佳果をもしのぐ速さでゾーンに達したシムルは、子どもには似つかわしくないほど深い眼差しでお礼を言うと、ヴェリスの元へ歩み寄った。


「ほら、使え」


「……ありがとう」


 シムルを通して瞳を宇宙にするヴェリス。そこにはやはり"無"が広がっていた。しかし彼のなかにある光を食べようとすると、佳果とはまた違うものが含まれていることに気づく。


(なんだろう……あたたかさのなかに、きゅっとするような……ふわっとするような……不思議な感覚。これ、なんだか楽しくて……ぼーっとするなぁ)


 その後シムルのゾーンが終わっても、ヴェリスはほろ酔いのような状態を維持し続けた。彼女の恐怖心がなくなったところで、一行は本題に入る。

お読みいただきありがとうございます。

筆者は二回だけゾーンに入ったことがあります。


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