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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第六章 相容れぬ壁の向こう ~うずく尊厳の声~
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第75話 表裏一体

「うおおおぉぉぉ!!」


 魔物の集団が佳果へ総攻撃をしかける。彼は的確にそれをいなしつつカウンターに転じるが、さすがに数が多すぎるのかさばききれない攻撃も出てきた。体力が削られるたび、鈍い痛みがともなう。


「くっ……」


「どうした!? 我らを魔獣とおとしめたのは貴様だろう! そのていたらくでよくもあのような大言たいげん壮語そうごを……!」


「しゃらくせえ!」


「ぬう!?」


 苛烈な攻防でゾーンに入った佳果が、これまで以上のちからと速さで魔物たちを押し返す。なかには彼よりレベルの高い個体もいるのに、なぜか歯が立たない。


「だったら証明してみせろや! お前らには感情があって、尊厳があって、愛があって……自分の闇が許せねぇから潰れそうになってんだろ!? なら人間おれ魔物(おまえら)に、いったい何の違いがあるってんだよ!」


「!」


「やっちまったもんの重さに沈められてんじゃねぇ! その痛みからがれてぇなら、こみ上げる悔しさを生きる理由へぶつけやがれ! 本当の敵は、痛みをまるごと放棄しようとするてめぇ自身の心と、それが肯定こうていされて喜ぶような世界だけだ!」


 魔物たちにはわかった。佳果のまとうあたたかな生命エネルギーの根底にあるもの――彼の魂がいま、強い振動をともなって輝いていることを。その光はあらゆる存在が求めてやまぬ美しさを兼ね備えていた。魅入みいられた数体が、ぽつりぽつりとこぼし始める。


「……我らは飢えに苦しんでいる。人間どもが住処すみかを奪い、破竹はちくのごとく繁栄を極めたからだ」


「しかしそのおごりは、人間うぬらとて飢えぬために編み出した勇気のひとつだったのだろう。貴様の言うとおり、我らをへだてるものなど……種族以外にはないのかもしれない」


「ならば、争わぬためにはどちらかが折れる(・・・)必要があるではないか。そこでノースト様は誰にもくみさぬ摂理をお使いになられた」


「……魔獣(モンスター)か」


「ああ。魔獣とはいわば自然現象――病床に伏した者がその体内で無意識に細菌を殺すのと同じように、奴らを打ち払うこともまた自然のことわり。それ自体に善悪はなく、ただ勝者が生き、敗者が死ぬという必然があるだけに過ぎぬ」


「我らは魔に近い存在であるがゆえ、魔獣やつらを誘導するなど容易たやすいことだ。ともすれば、これをけしかければ人間どもは自然にのっとってふるい立ち、抗うことだろう」


「結果、人間どもが負ければそれまでのこと。だが勝てば、元凶であるこの巣窟そうくつは遅かれ早かれあばかれる道理……実際に貴様らが来たようにな。そして言わずもがな、我らはその場合において自然をあやつった大罪の責を負わねばならぬ。つまりさばきを受け入れるのは当然至極(しごく)の報いなのだ。にもかかわらず、貴様はそれさえも無責任と豪語ごうごする」


「…………」


 どうやら彼らは食糧問題に起因する人間と魔物の争いを忌避し、魔獣に命運をゆだねたらしい。結果的には人間側が勝ち、こうして喉元のどもとやいばを突きつけられている現状を当たり前だと主張しているわけだが――。


「じゃあなんで村の人的被害が少なかったんだ? 魔獣をコントロールしてたのはお前らなんだろ」


「それは……」


「お前らは最初から勝つ気なんてなかった。どうせ"折れるのは自分たちの役目"とか考えてんだろうけどよ。それこそおごりってなもんだぜ」


「まったくです」


 戦闘が止まり、にらみ合いとなった佳果たちのもとへ零子が歩み寄ってきた。


「確かにあなたがたは世界に忌み嫌われている魔物かもしれません。それに、愛と魔を認識した上で、己が後者寄りという自覚があるのでしたら……自らの存在意義を疑ってしまうのも無理はないでしょう」


「……事実、我らは無用の産物なのだ。望もうが望むまいが、存在するだけで愛を阻害する。合理的に考えれば、人間が優先されるべきなのは自明じめいの――」


「っ! その誇りがあるなら! あたし達があなたがたを支援いたしますよ!」


「……なんだと?」


「よく言ってくれたぜ零子さん。確約できるわけじゃねぇが……俺らには頼りになる味方がたくさんいるんだ。片っ端から当たって方法を探してやるから、ここは一時休戦といかねぇか?」


「……………………」


 意識のある魔物たちは全員あきれた様子で顔を見合わせたが、やがて佳果たちに向き直る。なかでも筆頭とおぼしきリザードマンのような魔物が返答した。


「……すまぬ、貴様らのような妙ちくりんな奴らと出会ったのはこれが初めてでな。あまりの気色悪さに狼狽ろうばいせざるを得なかった」


「けっ! やかましいっつーの」


「だが我らの志は、弱者に助けを乞うほど安くないぞ。ノースト様が首を縦にふらなければそれまでだ。あの青き娘にノースト様がくだせるかな?」


 遠くのほうで激しい金属音が鳴り響いている。アーリアの奮戦が目に浮かんでくるが、佳果にとってその結末はすでにわかりきっていることだった。


「ったりめーだろ。うちの姉さんは最高にかっけぇんだぜ!」

お読みいただきありがとうございます。

佳果たちがこれまでのレベリングで

戦ってきたモンスターたちは魔獣です。


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