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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第六章 相容れぬ壁の向こう ~うずく尊厳の声~
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第74話 気高きモンスター

「サプレッション!」


 佳果が固有スキルを行使する。このゲームでは相対あいたいするもの同士の攻撃力(ATT)防御力(DEF)に加えて、防御無視率(PEN)気力値(ENE)、技ごとに異なる威力値(POW)など、複数の要素が組み合わさることで気絶値(STU)の蓄積量が決定される。しかし500%という破格の攻撃力上昇ともなれば、もはや細かいことは関係なく――このようになる。


「そらよっ!」


 彼のデコピンをくらった最寄りの魔物が、バシィという重い音とともにその場で気絶する。予定どおり蒸発はせず、不殺に成功したようだ。


「うっし、いい感じに抑制できてんな」


「……貴様、本当に我々を捕らえるだけで済ますつもりなのか? 殲滅せんめつする気で来なければ、この数を相手に立ち回れる道理もないだろう」


 魔物のうちの一体が、佳果へ語りかける。しかし彼は無言で頭をかくと、次の瞬間二体目の魔物へデコピンを放った。


「あいにく1分しかたないんでな。思い上がりかどうかは実戦で確かめてくれや」


 なだれ込むように敵陣の真ん中へ突っ込む佳果。そのえわたる心と身体の連動は、疾風しっぷうのごとく魔物たちのあいだをすり抜け、次々と意識を奪ってゆく。同時に彼は、攻撃するたびに指へ鈍い痛みが走るのを実感していた。


(……尊厳、か。ここにきて、ようやく痛みの正体がわかった気がするぜ)


 魔物の群れにまぎれた佳果をみて、唖然あぜんとしてた零子が我に返る。


(あれが高校生って何かの冗談でしょう……? っと、いけない。あたしも魔法で援護しなければ)


 零子は水晶玉を装備すると、その中心部へ意識を集中させた。魔法は基本的に詠唱えいしょうの必要がなく、イメージを具現化させる練習をすれば誰でも発動可能だ。ただしレパートリーは知力(INT)に左右され、各種魔法が相手に対して有効に働くかは魔力(MAG)精神力(MND)にかかっている。ところが彼女の場合、その辺りの事情が少し違うらしい。


「お眠りなさい」


 睡眠魔法がほとばしり、たちまち零子に向かって走っていた魔物たちが夢の世界へといざなわれ、バタバタと倒れてゆく。


「あ、あいつかなりの使い手だぞ!」


「いやしかし、どういうことだ? 生命エネルギーの密度からして、あいつのレベルはせいぜい200前後とみえる。いま落ちた同胞どうほうの中には120レベルの者だっていたのに……!」


 状態異常は術者のレベルの半分、零子の場合でいうと100レベル未満の対象に対しては必中、即時発動となるのが普通だ。だがそれ以上の相手には、少なくとも数回の蓄積がないと効果が発揮されないはず――魔物たちでさえ持っているこうした常識がくつがえされたのは、彼女が抱えている水晶玉が原因のようだ。


「おや、ご存知ありませんか? 水晶(クリスタル)がもつ波動には、あらゆるエネルギーを増幅させる効果があるのですよ。あたしの状態異常魔法は150レベルまでが対象内です」



 二人が善戦するなか、離れた位置でアーリアと魔人が対峙している。


小気味こきみよい一撃だったぞ。うぬ、名はアーリアと申したか」


「ええ。あなたは?」


「吾はノースト=アドモネア。茶番(・・)と知ってなお、その荘厳(そうごん)華麗かれいな立ちふるまい……称賛に値する」


「あら、バレてましたか。村の被害状況と、先ほどの尊厳の表明……魔物かれらたばねるあなたが魔獣をけしかけたのは、あくまで苦肉の策だった――そうなんですのね?」


しかり。だがそこまでわかっているならば何故、佳果(あの者)にあらがう道を示した? はなから真実を告げ、降伏を勧告すれば吾らとて……」


「佳果さんのことですから、すぐ自力で気づくはずですわ。それにあなたのやり方は彼の流儀に反しておりますの。痛みに責任をもつことでしか伝えられない優しさもある……あの子ならきっと、あなた方を導いてくれると思いますわよ?」


「……酔狂すいきょうなことだ。それをとするうぬらもまた」


「うふふ、『陽だまりの風』です。以後、お見知りおきを」



 サプレッションが切れ、10分間のクールタイムに入る。まだ魔物たちは大勢のこっており、ここからは加減の難しい峰打みねうちで気絶を狙っていかねばならない。だがそれが些末さまつなことに思えるほど、彼はとある直感に支配されていた。


(こいつら、戦う意志があると見せかけて全然やる気ねぇな……? まるで俺にされるのを待ってるような…………やっぱ、そういうあれなのか)


 佳果が急停止すると、魔物たちは隙アリと言わんばかりにたかってきた。


「佳果さん!」


 零子が慌てて呼びかけるも、彼は棒立ちのまま魔物を攻撃を受け入れようとする。


「!?」


 その行動に最も驚いたのは魔物たちだった。くらえば致命傷になりかねない頭部への一撃――特大の痛みを伴うであろうその一撃を、最後までかわそうとしなかった彼の心中しんちゅうやいかに。


「き、貴様! こちらの攻撃を読んだうえでわざと避けなかったな! 弱き者の分際ぶんざいで手心を加え、我らを侮辱ぶじょくするか!」


「そりゃこっちの台詞だぜ。お前ら、始めから俺たちとやり合うつもりなんてねぇだろうが。やられる気は満々のクセしてよ」


「!!」


魔人あいつの命令か? でもな、そりゃ逃げじゃねぇ(・・・・・・)ぞ」


「何を……」


「お前らにどんな事情があるのかは知らねぇ。だが、もし村を襲わせた代償にわざと犠牲ぎせいになろうとしてるっつーなら……それでてめぇ自身の呵責かしゃくからのがれることなんて、絶対にできねぇって言ってんだ!」


「に、人間風情(ふぜい)が知ったような口を……!」


「よく知っているさ。そいつは迎撃げいげきしねぇ限り、どこまでも追ってくるホーミングミサイルみたいな感情だ。んでもって勝手にあきらめちまえば、お前らは……魔獣の奴らなんかより、よっぽど無責任な存在に成り下がるだろうぜ」


(よ、佳果さん!? なにきつけちゃってるんですか!?)


 佳果がわざとあおるような言葉を選んだのは、痛みを分かち合うのに必要な闘志へ発破をかけるため。そしてその不器用なエールは、めぐるの時とはかたちが違えど、魔物たちの魂にもしかと届いたのだった。


「……聞き捨てならんな」


「いいだろう! 我らの本気、とくと味わえ!」


 瞬間、彼らと繋がっているノーストの心にもその変化が伝わってゆく。


「……ふっ、散りぎわ反骨はんこつにこそ光ありか。吾にはいささか青臭すぎるが……者共ものどもが力を尽くすというのであれば、吾もうぬらの胸を借りることをいとわぬ」


「では、誇りをかけて――まいりましょうか」


「いざ尋常に」


 ノーストたちがさいなまれている何か。

 それをともに見つめ、真っ向から逃げるための第一歩。

 お互いにとって前進のかなめとなる戦いが、いま始まる。

お読みいただきありがとうございます。

拳で対話する的なあれです。


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