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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第六章 相容れぬ壁の向こう ~うずく尊厳の声~
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第72話 イレギュラー

「あれか!」


 広い面積をほこる村の畑に到着すると、応戦している隊員らの姿が目に入ってきた。辺りには鬼や翼竜といったモンスターが数十体ほどおり、押されている模様だ。


「おっしゃ、俺らも手伝うぜ! ……ってありゃ?」


 佳果が威勢よく飛び出してゆくと、それまで攻撃に夢中だったモンスターたちが一斉いっせいに硬直し、即座にきびすを返し始めた。


「まあ」


「どうしたんでしょう? 阿岸君はまだ何も……」


「おおおお、覇気はきだけで奴らを追い払うとは!」


「やっぱりプレイヤーは一味違うなぁ!」


 駆け寄ってきた隊員たちが、やんややんやとはやし立てる。しかしこのような拍子抜けの展開で、まさか依頼を達成したとは考えづらい。


「……アーリアさん、どう思う?」


「わかりません。ただ、少し様子がおかしかった気もしますわね」


「おれもだ。兄ちゃん、とりあえず窮地きゅうちは脱せたのかもしれないけどさ、ここで逃しちまったら結局、また襲われるのがオチじゃない?」


「それもそうだな。サブリナさん、こっちは任せてもいいか? 俺たちはあいつらの後を追ってみるよ」


「承知しました。ご武運を!」



 モンスターが消えていった森のなかを進んでゆくと、やがて岩石地帯に出た。この辺りはラムスに似た地形をしている。


「あれ? 見通しのいいロケーションなのに、影も形もない……」


「どこいったのかな」


 楓也とヴェリスが周囲を確認するが、モンスターの気配はまったくない。


「ふむ、ここはあたしの固有スキルを使いましょう」


 零子の固有スキル《クァエレア》は周辺のプレイヤーやNPC、モンスターを解析することができ、使うたびにレベルや能力値といった詳しいデータを得られる効果をもつ。クールタイムは一分で七回行使すると解析完了、大概たいがいの情報が透視可能となる。この場では索敵さくてき手段として応用したかたちだ。


「……あちらです」


 彼女が指さす方向におそるおそる近づいてみる。すると巨大な岩の影に、ぽっかりと大穴が空いていた。


「こいつは……ねぐらでもあんのか」


「おそらくそうでしょう。さっき逃げたモンスターたちだけでなく、他にも色々といるみたいですから」


「数はどれくらいいるんですか?」


「ざっと数百体はいるかと。レベルは……なるほど、80前後が多いですが100以上も混じってるようですね。一番高い個体は――むむ、280レベル!? 『陽だまりの風』に適した依頼を受けたはずなのに、なぜこんな……」


 今朝、エレブナへの道すがら軽くレベリングを行った佳果・シムル・ヴェリスの三人は現在レベル100だ。楓也とアーリアはそれぞれ180と270のままで、零子については200とのこと。つまり現パーティーの平均レベルはおよそ160。


 今回は余裕をみて、その半分となるレベル80付近の依頼を受注したのだが――それはあくまでも、先ほど逃亡したモンスターたちを想定したものだったのだろう。


(明確な不測の事態(イレギュラー)……いったん態勢を立て直したいところですけれど、280レベルのモンスターなんて千花繚乱にいた頃ですら経験がありませんわ。現状、ワールド内に対応できるプレイヤーはわたくしを含めて数人いるかどうか……今後の被害を考慮しても、ここで放置するわけにはまいりませんわね)


「……シムルとヴェリスはここに残れ」


「えっ」


 キョトンとするヴェリスに、佳果は真剣な瞳で言った。


「俺たちプレイヤーはモンスターとの戦いで痛みを感じることはねぇし、万が一やられちまっても文無もんなしの状態で町へ強制送還されるだけだ。けどお前らは違うだろ? 痛みも感じりゃ、死ねばそこで全部終わっちまうかもしれない」


「で、でも兄ちゃん!」


「シムル。俺もお前も、今を生きる人間って意味では同じだ。そこにプレイヤーとかは関係ねぇ。だが、同じだからこそ……家族だからこそ、危険とわかってて死地しちに連れていくわけにはいかねぇんだ。今の状況は予定とズレてきている――こっちでも何かが起こるかもしれない。奴らのことは俺たちに任せて、お前はヴェリスを守ってやってくれ」


「…………わかった」


「ヴェリスもそれでいいな?」


「ん。佳果、無理しないで」


「サンキュー。そんで楓也、悪いんだが……」


「へへっ、ぼくもこっちに残ればいいんだよね? いい采配だと思うよ。二人のことは責任をもって見ているから」


「……頼んだぜ! もし俺らが負けた場合は、町のほうで落ち合おう」


「おっけー!」


「うし。んじゃアーリアさんに零子さん、ちょっくら付き合ってくれるか」


「ええ、たとえ地の底であろうとおともいたしますわ」


「これも人助けです。やれるだけのことはやってみましょう」


「総意は決まったようだね。それじゃあ吾輩はヨッちゃんたちを下まで運んだら、中間あたりで待機しているよ。どちらのチームも、離脱したい時は大声で呼んでね」


「了解だ」



 穴の下へ降りた三名。そこは壁掛けの燭台しょくだい煌々(こうこう)としている広間だった。周囲にはたくさんのモンスターがひしめき合っていたが、佳果らが来た瞬間、その半数ほどが尻尾を巻いて逃げ出す。


(またか)


 そして残ったモンスターの中から一人、二本の角を生やした褐色肌の人物があい色のマントをなびかせ、前へと出てくる。凄まじい威圧感を放つこの男――十中八九、280レベルのモンスターというのは彼のことだろう。


「ほう……フィラクタリウムの魔除けを活用するとは敵ながら見事だな。その輝き、尊厳(・・)のない奴らはひとたまりもないだろう」


(フィラクタリウム……? シムルくんがプレゼントしてくれた装飾品に、そのような効果が……)


(なにこの恐ろしい気配! あたし勝てる気がしないんですけど!?)


「……お前、言葉が通じるのか?」


「通じるとも。魔人のわれを含め、ここに残っている者はみな言葉を理解し、思考し、感情を持っている存在だ」


「…………」


「ふむ、問答無用で攻撃してこないのだな?」


「一つ確認させてくれ。さっき言ってた尊厳ってのはなんのことだ? それ次第で、今後のやり方が変わってくる」


「……ふっ、どうやられ者ではないらしい。いいだろう」


 魔人が指をパチンとならすと、逃亡していたモンスターのうち一体が空中へ浮かび上がり、佳果たちの前へ落とされた。

お読みいただきありがとうございます。


アスターソウルでの戦闘はレベル差があっても

テクニック次第では格上と渡り合えるのですが、

いかんせんダメージが通らないため相手の体力が削れず

決着がつかない(=負けないけど勝てもしない)

といった仕様になっております。


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