第71話 初陣
「こりゃ絶景だな」
変身したウーの背に乗って、一行は依頼主の待つセパーラの村へと向かっていた。上空から見下ろすアスターソウルの世界は壮大で美しく、また各所での思い出がよみがえってきてノスタルジックな気分になる。
「おれたちの生きてる世界って、こんなに広大だったのか」
「……すごい」
夢中で景色を眺める二人を、佳果たちが微笑んで見守っている。幸いこのなかに高所恐怖症はいないらしく、全員がこの状況を楽しんでいるようだ。
「しかしウー、おまえ元は水蒸気なんだろ? どうして俺らを乗せられるんだ?」
「言ったでしょ、吾輩はとびきり曖昧だから融通が利くって。それにヨッちゃんたちの身体も厳密には肉体じゃないんだし、お互いさまだよ~」
「肉体じゃない……か。確かにぼくらの本体は、いま須藤君の家にいるわけだしね」
「そういえば、須藤……めぐる君でしたわよね? 例の件で、身を挺してお二人を助けようとしてくれたという……」
「ああ。あいつもいずれはこっちに来るはずだぜ。そん時ゃ問答無用でパーティメンバーにするつもりだから、よろしく頼む」
「ふふっ、もちろんです! その日が待ち遠しいですわね」
「あのう、皆様。例の件というのは?」
「さっき現実世界で色々あったって話したろ? あれのことだよ」
エレブナからアスター城下町へ向かう道中、零子は彼らからエリア移動に関する見解を聞いていた。結果、根底に精神的な成長があるという確信、ならびに現実世界での行動がこちらにも影響を及ぼす点など、非常に有意義な情報を得ることができた。
そしてその際、ヴェリスのSSがⅠからⅥまで上がった経緯についても掻い摘んで教えてもらったのだが――例の件とはつまり、Ⅵへ移動するきっかけになったという直近の殺人未遂事件を指しているのだろう。
「っ、ごめんなさい……あまり触れるべきではございませんでしたね」
「かか、変に気を遣われるよかマシさ。そのままでいてくれや」
「あ、ありがとうございます」
なぜ彼が皆から慕われているのか、零子は俄然腑に落ちた気がした。その懐の広さが、こうしたあたたかくも不快でないパーティの雰囲気をつくりだしているのだ。
(やはり佳果さんたちと一緒に歩んでゆけばきっと……あたし、がんばるからね)
誰かに向かって心のなかで決意を述べる零子。
その声をひそかに拾ったウーは、ちらりと彼女を見て目を細めた。
◇
ものの10分程度でセパーラに到着した一行。上から颯爽と現れる彼らを目の当たりにして、先に駐留していた王国軍がたいそう驚いている。よく見ると、そこには知った顔があった。
「よお、サブリナさん!」
「これは佳果どの! すると、今回支援してくださる『陽だまりの風』というのは……」
「おれたちのことだぜ!」「こんにちは」
「シムルくんにヴェリス嬢! ……なんとも心強い方々が来てくださった」
サブリナがとても嬉しそうに敬礼する。それに倣って佳果たちも敬礼し返していると、軍の設備から一人の老人が出てきた。
「おお、君たちが陽だまりの風か。此度はご足労をおかけした。わしはここの村長をやっとるナフェレと申す者じゃ」
「あんたが依頼主の……リーダーの阿岸佳果っす。よろしくお願いします」
「こちらこそ。さて、さっそく依頼内容の確認じゃが……この村は今、えらく強いモンスターどもに襲われとってな。王国軍と協力して奴らに対処して欲しいんじゃよ」
「ああ、承知してるぜ」
「それで、そのモンスターというのはどの辺りにいるんでしょうか?」
「ここから少し行ったところに、村の畑と食糧庫がある。奴らはその付近に潜伏しているらしくてのう、こちらが隙を見せると出現し、食料を根こそぎ奪い去ろうとするんじゃ。王国軍が寝ずの番をしてくれているおかげで、今は膠着しとるがな」
「しかしこの数時間で、見境なく攻撃をしかけてくるパターンも増えてきました。我が隊が都度しりぞけてはいるのですが、相手は過去に前例がないほど強力な個体ばかりで……正直、芳しくない状況にあります。向こうも徐々にこちらとの力量差を把握しつつあり、このままでは押し切られてしまうやもしれません」
(ラムスの宴で聞いた話じゃ、確かサブリナさんの部隊って王国随一の精鋭だったよな。それが苦戦を強いられるってこたぁ、結構やべぇのがいるわけか……だが)
「そこでわたくしたちの出番というわけですわね」
「久々の戦闘、腕が鳴ります!」
「かか、最近あんま暴れてなかったもんなぁ」
「おれ、ちょっと試してみたいことあるんだ。はやく戦おうぜ」
「がんばる」
不敵に笑う彼ら――陽だまりの風には超高レベルのアーリアをはじめとして、武に精通する佳果、搦手とクリティカルに長ける楓也、抜群の戦闘センスを誇るシムル、レベル差を無視して立ち回ることもできるヴェリスがいる。現在は零子とウーという後ろ盾もあるため、よほどの事態が起こらなければ遅れは取らないだろう。
「ほっほっ、なかなかどうして頼り甲斐のありそうな連中じゃ」
「かたじけない。それでは、どうか助太刀をお願いいたします!」
こうして状況確認の済んだ一行は、現場へ急行した。
お読みいただきありがとうございます。
はてさて、どんな敵が待ち受けているのか。
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