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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第五章 陽だまりの風がふく ~萌芽するしあわせ~
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第68話 善意の罠

「愛をあたえる……」


 まっさきに浮かんだのは、依帖えご稔之としゆきとチャロの対話だ。あのとき彼女は、広義における愛の定義が"他者を自分のように感じられる能力"と言っていた。それをあたえるとなると、どのように解釈かいしゃくすべきなのだろう。


「具体的に、ぼくたちはどうすればいいのですか?」


「まあ早い話が善行ぜんこうを積めばいいのですけれども、かといって慈善じぜん活動さえおこなえばSSが上がるわけでもありません。鍵となるのは、皆様がおっしゃっていた前向きな願望――すなわち善意が本当に"他者のかてになり得るかどうか"、です」


「お次は糧ときたか……」


(ふむ、だんだんとエリア移動の条件がわかってきた気がしますわね。でもこれは自由意志の観点から見ると、おそらくわたくしがあれこれ言ってしまうのは逆効果……今は慎重に、この子たちを見守るとしましょう)


「つまり、相手をちゃんと喜ばせてあげられるかが重要になると?」


「ちょっと違いますね。たとえばあなたが一流のシェフで、最高の料理をつくったとします。それはあなたがお客さんに振る舞うため、心をこめて一所懸命に完成させた会心の品々。当然、心ゆくまで味わっていただきたいところですよね?」


「そりゃそうだろうな」


「しかしその日レストランに来てくれたお客さんは全員、たまたま他のお店をハシゴしていて既にお腹がいっぱいだったとします。そしてせっかくお出しした料理が、まだ半分以上も残っている状況でお客さんたちは帰り支度じたくを始めてしまった」


「……」


「このとき、食材が無駄になってしまうという倫理的な問題はいったん度外視して、あなたには三つの選択肢が発生します。一つはお客さんたちに全部たべるよううながすこと、もう一つは持ち帰るなり別の方法をすすめること。最後はあきらめて泣き寝入りすること。楓也さんならどうしますか?」


「うーん。お客さんは実際に満腹なわけですし、全部たべさせるのは違う気もしますね。かといってあきらめるのも、いかんせん納得しがたい部分があるでしょう。一番よさそうなのは持ち帰りなどを勧めることだと思いますが」


「ではお客さんが、その勧めを何らかの理由によって拒否したら?」


「……その場合は、あきらめるほかないかもしれません」


「俺も同意見だ。もっとも、はなから食えねぇってわかってるのに店へ来る連中にそもそも問題があるとは思うがよ」


「ほうほう、なかなか冷静ですね。あたしもお二人の考えに異論はありません。では、今回の例における一番よくない選択はどれか、と聞かれたらどうでしょう?」


「普通に考えたら、完食を強制することではないかと……」


「いいえ、実はそれが二番目です。最もよくないのは、最初から泣き寝入りを選んでしまうこと。なぜだかわかりますか?」


「……察するに、相手の糧になり得るかってとこへ帰結するわけか」


「ご明察めいさつ。つまり他人を喜ばせることと愛をあたえることは、似て非なるものなのです。この場合、何もせずに泣き寝入りするという選択はお客さんの機嫌を損ねず、波風なみかぜも立ちません。ですが代わりに、佳果さんの指摘した相手方あいてかたの無責任について、看過かんかしてしまうかたちになります。これこそが、善意のおちいる大きなわな


 零子の説明によると、他人に愛をあたえるためには、その相手を喜ばせる以前に支援(・・)しなければならないらしい。支援というのは、相手方の背負っている問題が露呈ろていした際、解決のきっかけとなる方法をそこはかとなくでも提示し、気づきの機会をつぶさないよう努めるのと同義だそうだ。


「なるほど。零子ちゃんはそうやって他人に愛をあたえることで、エリア移動に成功したわけですか」


「アーリアお姉さまのおっしゃるとおりです」


(お姉さまってなんだよ……)


「そして、あたしにとっては占術を使った慈善活動が正解でしたが、皆様には皆様のやり方が存在しているはず。まずはそれを見つけるのが先決でしょう」


「その人によって、辿るべき道筋みちすじは異なるということですか……」


 ここまでの話を聞いて、佳果と楓也はおおむね納得した表情になっていた。しかしアーリアだけは心のなかで情報を反芻はんすうし、思案顔をしている。


(零子ちゃんの説明にはあります。しかしその愛には……いえ、結局これも時期尚早(しょうそう)なのかもしれません。ふふ、チャロ(アイちゃん)明虎あきとらさんの苦悩がわかりますわね)


「……あんたの話はわかったぜ。だがせめて、なんか取っ掛かりがないときつくねぇか?」


「フフフ。そこでギルドですよ」


「ギルド?」


「ええ。アスター城下町にある掲示板には毎日、様々な依頼が届いています。それらはギルドに属するプレイヤーのみが受注可能となっていて、今後自分がどういった活動をしてゆくべきなのか見定める基盤としては、まさにうってつけのシステムなのです!」


 そう言って、立ち上がった零子はひとつ伸びをする。


「善は急げ――今からさっそくアスター城下町に参りませんか? 皆様がお持ちの攻略情報は、その道中にでもお聞かせ願えればと思います」


 にっこりと笑う彼女。ところがその後ろで、何やらとんでもない光景が繰り広げられていた。ヴェリスとシムルが遠くのきりのなかで、浮かんだり落ちたりしているのである。


「!?」

お読みいただきありがとうございます。

アーリアさんは何に引っかかっていたのか。

筆者は日夜、そんなことばかり考えております。


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