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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第五章 陽だまりの風がふく ~萌芽するしあわせ~
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第67話 零子の目的

「あんた、なんでここにいる」


「あら、お邪魔でしたか? でもこのお店はあたしの行きつけでして……日課のコーヒーブレイクを楽しむくらい、ご容赦ようしゃいただきたいところです」


 零子はマグカップをくいっとかたむけて、優雅ゆうがにコーヒーを口に運んだ――と思いきや、すぐに紫紺しこんの瞳に涙を浮かべてせき込む。


「! げ、げほっげほっ! に、苦いぃぃ!」


「あの、零子ちゃん……それエスプレッソですわよね?」


「え、えすぷ? メニューを見て黒いやつを選んだのですが、もしかしてブラックコーヒーには複数の種類が……?」


「いや種類ってか、抽出方法の違いだよ。砂糖入れんの前提だし、そのままいったらそりゃあ苦ぇだろうさ」


「??」


 はてなを浮かべる零子に、カウンターから様子を見ていたバリスタがやれやれといった感じで言い放つ。


「だから言ったろおじょうさん。初めてなのに背伸びはよくねぇってよ」


「す、すみません…………あ」


「あっはっは! 姉ちゃん嘘つくの下手だなぁ」


「ふ、不覚ふかく……!」


「えーっと、和迩わにさん。もしかしてぼくたちをっていたんですか? やっぱり心変わりして、さっきの件で代金を請求に来たとか……」


「おほん! それにつきましては永久に無償(むしょう)と申し上げたはずです」


「じゃあ、いったい何の用だよ」


「……フフフ。皆様はエリア移動について悩まれているのでしょう? 手がかりは得ているものの、いまいち今後の方向性がつかめない――違いますか」


 何やらドヤ顔を決めているが、要するに盗み聞きをしていたということだろう。しかし彼女は悪びれる様子もなく、右手の人差し指をピンと立てて言った。


「あたしなら、再びお力になれると思いますけど?」


「それは願ってもないお話ですが……零子ちゃんはどうして、わたくし達にそこまで協力してくださるんですの?」


「ぎくっ」


「アーリア。零子、たぶんえてるよ」


「まあ」


「あん? ……楓也に対して色がどうのとか言ってたやつか?」


「うん。色は魂がもっているものの一つで――零子は、わたし達のSSもえているんだと思う」


「SSが? 姉ちゃん、そうなのか?」


「ほほう、さすがですね。ヴェリスさんの言うとおり、あたしには皆様のSSがばっちりくっきりえています。……もはや隠し立ては不要のようですね」


 零子はおもむろに立ち上がると、こちらへ近寄ってきて、かぶっていたフードをとった。あらわになったサイドポニーテールの長髪はゆるく三つ編みで巻かれており、赤色だった髪は桃色へと変化する。彼女は礼儀正しく一礼した。


「改めまして、あたしは和迩零子。このゲームでは絶滅危惧種(きぐしゅ)となっている、クリア推進派の一人です」



 込み入った話をするなら場所を変えようということで、一行はエレブナの近くにある観光スポットの一つ、『化霞かかの滝』まで来ていた。この滝は落差がありすぎるため、落ちてくる水はすべてきりとなって辺りをおおい尽くしている。


「すっご! これが生の滝かぁ! ほらヴェリス、上の方で白い煙みたいのが縦に伸びてるだろ? あれが本体なんだぜ」


「ほんとだ。なんか落ち着く感じだね、空気もんでて」


 きゃいきゃいと楽しそうにしている二人を眺めつつ、他の四人はベンチに腰かけ、先ほどの話を進めた。


「で、クリア推進派だったか」


「はい。あたしはこれまでソロで攻略を進めてきたのですが、色々と模索した結果、当初ⅥだったSSをⅦに上げることに成功しました。少なくとも佳果さんよりは先輩ということになるかと思います。えっへん」


「……あんた最初とキャラ違くねぇか?」


「フフ、仕事とプライベートは分けていますので。世を忍ぶには、オンオフが肝要かんようなのですよ? きっとあなたも大人になればわかります」


「さいでっか」


「あはは……それで、和迩さんはどうしてぼく達を助けてくれるんですか? アーリアさんは別にしても、他のみんなはあなたよりSSが低いのに」


「単純な話です。あたしの占術は、いわばその人が辿ってきた魂の変遷へんせんが視られるという代物しろもの。よって皆様――とりわけヴェリスさんが短期間で、飛躍的にSSを上昇させたことも感知しております。SSは一つ上げるだけでも奇跡と言われているくらいですから、皆様が特別なのはひと目でわかりました」


「なるほど。つまり零子ちゃんは、攻略のいとぐちを見つけようとして、わたくしたちに声を掛けたんですのね」


「無償といいつつも、腹に一物いちもつあったってことか」


「いえいえ、それは誤解です。お近づきになるために打算的な部分があったのは否定しませんが……皆様への協力を申し出たのは、決して私利私欲によるものではありません。なぜならエリア移動には、奉仕ほうしの精神こそが必要となるからです」


「奉仕の精神ですか……まあアスターソウルは事実、クリア(イコール)善行という感じのゲームデザインになってるみたいですしね。攻略を目指している時点で、あなたに不純な動機がないのはなんとなくわかりましたけど……ならエリアⅦへの移動方法についても、無償で教えていただけるんでしょうか?」


「もちろん、あたしが知る限りの情報でよろしければお伝えしますよ。可能であれば皆様の情報も共有していただきたいところですが……そちらは無理強いするつもりはありません。さあ、いかがなさいますか?」


 三人は見合わせると小さくうなずいた。実質デメリットなしで先駆者の助言をもらえるというのであれば、ここは恩恵にあずかっておくべきだろう。そしてこれがどういった因果いんがをもたらすかはわからないが、手を取り合うこと自体に抵抗はない。


「わかった。あんたが話してくれる内容にもよるが、俺たちも攻略情報を独占するつもりはねぇ。ウィンウィンといこうや」


「ありがとうございます。ではさっそくお話しますが……そうですね。まずは、エリアⅥからⅦへ移動するために最も重要な要素についてお教えいたしましょう。それはずばり――他者へ愛をあたえる(・・・・・)ことです」

お読みいただきありがとうございます。

エスプレッソはケーキとかと一緒なら

原液でもいい感じに美味しいと感じます。


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