第63話 ギルド
パーティ翌日。現実世界の佳果と楓也は、引き続きめぐるの家でお世話になっている。三人は家政婦さんの作ってくれた朝食にありつきつつ、昨日の出来事について話していた。
「へえ、手紙か……それで感謝を伝えてくれるなんて、本当にいい子だね」
「そうなんだよ! うう、思い出してまた泣きそうになってきた」
「お前ちょっと涙もろすぎやしねーか?」
「あ~他人事みたいに! 阿岸君だって、昨日は貰った手紙見つめて何度もうるうるしてたじゃない!」
「え、佳果くんが……!?」
「だぁーっこの話は終わりだ! めぐる! バイトの方はどうだったんだよ?」
彼は昨日、初出勤を終えたばかりだ。早朝に出かけて夜に帰ってきたようだったが、特に疲弊している様子は見られない。
「えっと、うちの店って高級珍味とかをメインであつかってるんだ。単価が異様に高くて、客数が多くないところは助かってるんだけど……」
「だけど?」
「代わりに、来るお客さんがみんな少しずつ変なんだ。番組を降板した芸能人とか、山で暮らしてるっていう仙人みたいなおじいさんとか、自称やみの魔導師とか」
「なんかとんでもないお店だね……」
「とりあえず、まだ手探り状態って感じかな。店主が毎日来いって言ってるから、ひとまず今日もがんばってみるつもりだよ」
「そうか……心意気は立派だと思うが、あんま無理すんなよ?」
「ありがとう。でも暇な時間も多いし大丈夫。それにこれは内緒なんだけど……お客さんがお金くれることもあって、実はかなり時給がいいんだ。この分だと、早く目標額が貯まる可能性も出てきた」
「お客さんがお金をくれる……? 一体どうして?」
「うちの店、料理の提供と一緒に"お悩み相談"もやってるんだ。うまく相談に乗ってあげられると、お礼にチップを貰えることがあって」
「ほー、そんなこともやってんだな」
「うん。たとえば昨日は、音楽やってる三人組にグループ名を一緒に決めてくれと頼まれて――今日の夕方までに、いくつか候補を考えておくことになってる」
「なるほど……もし須藤君の考えた名前が採用されたら、チップが貰えるって感じか」
こくりと頷くめぐる。
「んじゃあ、俺らもいま一緒に考えるか? 協力するぜ」
「ううん、これはやっぱり自分の力だけでやってみるよ。……あ、でも佳果くん達のパーティがどんな名前なのかは、参考までに聞いておきたいかな」
不意の質問に佳果が詰まる。そういえば、今まで特にそうしたものを取り決めたことがなかった。受け答えに困っている彼を見て、めぐるは察する。
「あれ、もしかしてまだ……?」
「ああ……言われるまで気づかなかったが、考えたことなかったわ」
「アスターソウルはギルドがパーティ名の代わりになるんだけど、創設の申請を受け付けてくれる建物が次の町にあるから――機会がなかったのは実質仕様だね。……そうだ、ちょうど良いタイミングだしこの後にでも行ってみる?」
「そりゃあいい」
「ふふ、じゃあ今日は自分もお客さんのグループ名を頑張って決めてくるから、そっちもギルドの創設とネーミング、頑張ってきてね。帰ったらどういう名前になったか教えて」
「おう」と答える佳果に、めぐるが微笑みかける。彼は手早く支度を済ませると、元気よくバイト先へ出かけていった。残る二人も後片付けをしたのち、定位置についてデバイスをかぶる。
◇
「ギルドですか……確かにそろそろ、いい頃合いかもしれませんわね」
今日は現実世界が祝日であるため、朝から全員が集合している。
アーリアは佳果たちの話をきいて思案顔だ。
「楓也、ぎるどって何?」
「んーそうだなぁ。ぼくらみたいな家族を"ひとまとまり"として見てもらえるようになる制度のことだよ。名前も自分たちでつけられて、公的な活動の幅が広がるんだ」
「なんかそれ、すごく面白そうじゃんか! さっそく申請しに行こうぜ!」
「ん! わたしも賛成!」
「ならひとまず、次の町の"エレブナ"ってとこを目指すか」
「ええ! 名前は道中、みんなで考えましょう。……何がいいかしら。言うなればこれは、わたくしたち家族を表す大切な大切な名前……ああ、なんて悩ましい」
「かか、自由ってのは時折、不自由だから世話ねぇよな」
こうして一行は、ああでもないこうでもないと言いながら旅を再開した。
お読みいただき、ありがとうございます。
筆者はどんなゲームでも身内だけの小規模ギルドしか入ったことがありません……。
大規模なギルドで精力的に活動している人ってすごいですよね。
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